“朝ドラ”こと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)の評判がじわじわ上がっている。朝ドラ初の3人のヒロイン(上白石萌音、深津絵里、川栄李奈)による3世代の物語で、1925年から2025年までの100年間を半年の放送で描く壮大な企画は、2月に入っていよいよ3代目ヒロイン川栄演じる大月ひなたが登板した。
時に1983年、ひなたが朝ドラ絶対王者『おしん』の第1回放送と共に登場したことで、『カムカム』の中に『おしん』のDNAが流れていることを感じた視聴者も少なくないのではないだろうか。3代目ヒロイン・川栄李奈は言ってみれば、おしん第三形態である乙羽信子である。
『カムカム』後半の底力に潜む名作『おしん』の痕跡を追ってみよう。実はこれまでもうっすらその痕跡はあった。
「つつましく暮らせればそれでいい」
初代ヒロインは、戦中戦後の激動を生き抜いた安子(上白石萌音)。無垢な少女が戦争で家族の大半を失い、女手ひとつで娘るいを育て次第に逞しくなっていく姿を上白石が濃密な演技で見せた。その悲劇的な結末は視聴者に衝撃を与えた。
ここにすでに『おしん』感はあった。安子が嫁ぎ先を出て自力で生活しようとしたものの事故に遭って負傷してしまうことや、幼い子供をリアカーに乗せて行商するガッツなどにおしん・第二形態である田中裕子編が重なって見える。
2代目ヒロインは安子の娘るい(深津絵里)。幼少期に母と別れた彼女はやがて京都で回転焼き屋を営むようになる。最近はテレビドラマで見かける機会が減った深津絵里が18歳の多感な青春期から演じ、その透明感も相まって話題をさらった。
オダギリジョー演じる後(のち)の夫・大月錠一郎との恋は、深津とオダギリというスター俳優によって往年のトレンディドラマのような華やかなムードもあり、ここには泥臭い『おしん』感はないように見えるが、るい編にもまた『おしん』を思わせる箇所がある。
るいが本格和菓子商売をはじめることなく回転焼き屋をほそぼそとやっているわけは、「つつましく暮らせればそれでいい。そのときが一番幸せなのだ」という考えに基づいたものだった(第66回)。ここはおしんがスーパー経営で成功したのちにこれでよかったのか疑問に思うことと似ている。これこそ『おしん』の本質でもある。おしんは戦後の資本主義に流されてしまったが、るいはおしんの踏んだ轍を踏まずに生きているのだ。