女の一代記『おしん』、女の三代記『カムカム』、それぞれに一長一短がある。『おしん』はひとりの人物が明治、大正、昭和と激変していく様子をこの目で見て体感する臨場感があるが、『カムカム』はその世代のヒロインが見たもの以外は、視聴者は知っていても当人は知らない。その知らないことが脈々と受け継がれていることをドラマティックに描いたのが『カムカム』の工夫である。
安子とるいが“同じ体験”を繰り返すワケ
初代も2代目も多感な少女時代、恋、結婚、出産が繰り返されて、母と娘は同じような体験をする。例えば、幼い頃、町内会でラジオ体操をするとか、恋人と河原で自転車の練習をするとか、安子編であったことをるい編でもう一度繰り返している。
また、安子の地元の荒物屋の主人の子供が成長した姿を同じ俳優(堀部圭亮)が演じて、親と同じようなセリフを言う。人気映画俳優とその名跡を襲名した息子を同じ俳優(尾上菊之助)が演じている。時代は繰り返すというよくある言葉を登場人物たちが実体験している。
戦争で何もかも失った日本が復興し、目に見える風景はどんどん変わっていく。街も流行も。その一方で変わらないこともある。それが思春期や恋だ。誰もが通り過ぎる経験だ。家族愛や近隣愛などもまた然り。
おしんが長生きしてスーパーの経営者としてのし上がっていくうちに取りこぼしてしまったつつましさや人情が、るい編では丁寧に描かれた。岡山の実家からひとり大阪に出てきたるいが住み込みで働くようになったクリーニング屋の経営者である竹村夫妻(村田雄浩、濱田マリ)はじつに善人で、るいの過去を詮索せず実の娘のようにかわいがる。
また、錠一郎は、天涯孤独の戦災孤児だが、出会った人たちに助けられて生きてきた。活路を求めて京都に移り住んだるいとジョーが友人や近隣の人たちに助けられ、娘のひなたもすくすくと育つのである。
『おしん』は年をとってから過去にさかのぼり、失ったものを取り戻す物語であり、『カムカム』は失う前に次世代に託していく物語である。