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 うっすらと『おしん』の教えを体現している初代と2代目のバトンを受け取り、時代劇の世界に飛び込む予定の3代目ヒロイン・川栄李奈はどんなおしん像、いや、ヒロイン像を見せてくれるだろうか。NHKの戦争ドラマ『夕凪の街 桜の国2018』のヒロインや大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)での徳川慶喜(草なぎ剛)の妻・美賀君役などで確実な表現力を発揮している川栄だから、立派に最終ランナーとして駆け抜けてくれるに違いない。

『カムカム』の大月家は何を観ていたのか?

 さて。『おしん』DNAの最たるポイントとは、日本の現在地を過去から問い直す試みであることである。『おしん』の脚本家・橋田壽賀子は『おしん』を書いたとき、日本の経済が右肩上がりで豊かになっているが、このままでいいのかと世に問いかけようと考えていた。

 その想いは数多くのインタビューや著書に何度も顔を出している。今(書かれた当時の80年代)はこんなに贅沢ができる時代だけれど、40年ほど前は戦争が起こって誰もが苦しんでいた。その前は、地方の農民は搾取され子供は奉公に出されるような過酷な状況があった。東京に出てきたら関東大震災があって……とヒロインは苦しみの連続。

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 なんとか乗り越えながら幸福を求めて生きてきたけれど、我々日本人はどこでどう間違えたのか……。経済的に豊かになったものの家族の心はバラバラで、子供や孫と距離を感じる孤独なおしんは、自分の過去をたどる旅に出る。これが、『カムカム』で大月家が見ている『おしん』の第1話である。

『カムカムエヴリバディ』(番組HPより)

 老女・おしん(乙羽信子)が孫と共に故郷を旅して、昔の記憶をつぶさに思い出し、これからの世代である孫に、思い出のなかにみつけた、決して失ってはいけない大事なことを伝えていく。取り返しがつかなくなる前に、より良い未来を願って子孫に託す。『おしん』ではそれを少女時代を小林綾子、成人時代を田中裕子、シニア世代を乙羽信子と3人の俳優が時代によって演じ分けた。

 同一人物とはいえ『おしん』も“3人ヒロイン”。彼女たちによって戦前、戦中戦後、現代(当時の80年代)と近代日本史が描かれた。舞台は山形から佐賀、三重と移動して、1907年から1983年の76年間。『カムカム』は岡山、大阪、京都と舞台を移動しながら描く100年間。

『おしん』のほうが四半世紀分ほど短いが、それがひとりの人物の物語の限界ではあろう(人生100年時代の今なら100歳ヒロインも可能か)。『カムカム』は祖母世代、母世代、孫世代と3世代に分けたことでより長い近代史の100年を描くことが可能になったわけだ。