会話をしているとき、相手の表情や態度から気持ちを読み取ろうとする人は少なくないだろう。もし相手が笑顔で話していたら、多くの人が「自分に対して嫌悪感は抱いていない」と判断するはずだ。しかし、もしその笑顔が“ウソの笑顔”だとしたら――。
ここでは、「空気を読むを科学する研究所」の代表で、「表情分析」のテクニックを駆使して犯罪捜査にも協力してきた清水建二氏の著書『裏切り者は顔に出る 上司、顧客、家族のホンネは「表情」から読み解ける』(中央公論新社)から一部を抜粋。相手の“ホンネ”を読み解くための表情分析スキルを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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自殺願望を見抜け
「私、退院したいんです」
「退院をご希望なのですね。退院したら何かしたいことはありますか?」
「もちろん! 夫に食事を作ってあげたいわ」
「それはいいですね」
「それから、子どもたちを学校に見送ってあげたいの」
「それも素敵ですね」
「それから、それから……」
終始にこやかに将来の夢を話すのは、メアリーさんです。彼女は自殺願望を抱えていたことから、病院への入院措置がとられていたのです。病院での治療が功を奏したのか、もう自殺したいなどとは思っていないと退院を求めます。しかし、主治医の答えは「NO」。「もう少し様子を見ましょう」とのことで退院は見送られました。
「何か違和感がある」、そう主治医は説明します。実際、メアリーさんは「もしこのとき退院できていたら、自殺をしようと思っていた」と、後のインタビューで話しています。主治医が感じとっていた違和感は、当たっていたのです。しかし、主治医は自身の違和感を適切な言葉で説明できません。この違和感の謎に挑んだのが、米国の心理学者ポール・エクマン博士らの研究チームです。
エクマン博士らは、診断中のメアリーさんと主治医との会話が録画された動画を、何度も何度も繰り返し観ました。しかし、何も発見することが出来ません。そこで、コマ送りで一コマ一コマ観ることにしました。すると、メアリーさんの奇妙な表情の変化に気づきます。通常スピードの動画では、笑顔で話しているだけにしか見えなかったメアリーさんでしたが、コマ送りで観ると、苦悩で顔をゆがめているような表情が一瞬、浮かんでいたのです。