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「強い感情が抑制されると、微細な顔の動きとして瞬間的に表れるのかも知れない」。エクマン博士らはそう考えました。この微細な顔の動きが、後に微表情と名付けられます。1960年代のことでした。微表情の発見後、エクマン博士らを中心に様々な研究者が感情と表情との関係を研究し始めます。そして、ようやく2000年代になって、微表情の存在が初めて実証されたのです。

 発見当初、微表情が表れるのは0.2秒ほどの現象だと考えられていました。しかし近年の実証研究により、0.5秒ほど続く表情であることがわかってきました。0.2秒から0.5秒にやや伸びたとはいえ、瞬間的な表情であることには変わりありません。訓練された目を持っていなければ、ほとんど見過ごしてしまいます。80~90パーセントの微表情を私たちは日々見過ごしている、そんなふうにも言われています。

 抑制された感情が意識・無意識問わず、瞬間的に、ときに部分的に顔に表れる微表情。自殺願望者の表情研究以後、表情・微表情研究は、ウソ検知、比較文化研究、教育、医療、ビジネス、介護、エンタメ、ロボティクス等々、様々な分野へと波及していきました。現在では、AIによって微表情を読みとる試み等が各国でなされ、今後、ますますホットな話題になると考えられます。

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 微表情がどんな分野で活用され、どんなときに表れるのか。ご紹介しましょう。

米軍やFBI、CIA等で駆使されている微表情検知スキル

 サンフランシスコ州立大学教授ディビッド・マツモト博士ら研究チームは、次のような実験をしました。

 実験のために集めた参加者を、模擬犯罪(窃盗行為)を「行う」グループと「行わない」グループとに分けます。模擬犯罪を「行う」参加者には、指定された部屋に入り、100ドルの小切手を盗む計画を立ててもらいます。模擬犯罪を「行わない」参加者は、指定された部屋に入ってもらいますが、目的は、100ドルの小切手があるかどうかを確認してきてもらうことです。参加者は、自分以外の参加者の存在も目的も知らない状況で、一人で部屋に向かいます。

 それぞれの計画を持った参加者が、指定された部屋に向かいます。すると、突如、チェックポイントが現れます。ここには参加者の目的について何も知らない警備員役の実験補助者(以下、警備員と書きます)がおり、部屋の入室目的を尋ねてくるのです。このチェックポイントを無事に通過しなければ、部屋に入ることが出来ません。参加者は、目的を達成するために、警備員に部屋に入る許可をもらう必要があります。このとき、模擬犯罪を「行う」に割り振られた参加者は、小切手を盗む目的がバレないようにウソをつき、「行わない」に割り振られた実験参加者は、正直に話します。