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 なお、モチベーションが高まるように、参加者には20ドルの協力費を支払うことを約束しています。加えて、実験成績に応じて0~80ドルのボーナスが支払われます。ウソがバレたり、冤罪になったりすると、実験後に一時間かかるアンケートに答えなくてはならず、ボーナスも支払わないことを通知しています。警備員が参加者を信用すれば、実験後すぐに帰宅でき、罰はなく、ボーナスを支払う、そんな設定です。

 このような条件下で、チェックポイント通過時にウソをついていた参加者と正直な話をしていた参加者の微表情が計測されました。実験の結果、正直な話をしていた参加者に比べ、ウソをついていた参加者の顔には、怒り、軽蔑、嫌悪、恐怖、悲しみの微表情が多く生じ、63~68パーセントの精度で真偽を区別できることがわかりました*1。

(*1この数字のインパクトはどの程度でしょうか。本実験でウソをついていた参加者と正直な話をしていた参加者の割合は、同じでした。つまり、真偽判定をする上で、チャンスレベルは50パーセントになります。様々な実験から、ウソに接する頻度が高い職務従事者、例えば警察官や裁判官であろうと、それ以外の一般人であろうと、ウソ検知率は54パーセントであることがわかっています。微表情の有無から60パーセント以上の精度で真偽を区別できるならば、微表情以外の非言語分析法、戦略的な質問法、言語分析法なども組み合わせれば、ウソ検知の精度をさらに高めることが期待できます。実際、ウソあるいは正直な話をしている人物の(微)表情、ジェスチャー、声に関わる14種類の非言語行動と戦略的な質問法との関係を測定したところ、62.6~72.5パーセントの精度で真偽を区別できることがわかっています。)

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 この数値は、実験室で行われた実験から算出されたものではあります。ですが、現実の犯罪者が犯罪計画や自身の犯した行為を隠す、あるいはスパイが自国の利益のために本心を隠し、偽の物語を語っているときの「絶対にバレてはいけない」「どんなふうに取り調べを切り抜けようか」という葛藤は、実験室での実験の比ではないでしょう。

 人間の感情というものは強ければ強いほど抑えることが困難になり、微表情として生じてしまうことがわかっています。

 微表情検知の有用性が認められ、米軍、米国の捜査機関であるFBI(連邦捜査局)や諜報機関であるCIA(中央情報局)、NYPD(ニューヨーク市警察)、その他にも日本を含む各国の警備・警察・公安機関において、表情・微表情検知のためのトレーニングがなされています。

©iStock.com

 詳細なトレーニング内容は公開されていませんが、微表情検知のためのオーソドックスなトレーニングは、男女・様々な年齢・代表的な民族から構成された人々の表情写真を用意し、これらの中から一枚の表情写真がランダムで瞬間的に提示され、その表情がどんな感情を示しているかを目視で検知する形式のものです。

 実際にやってみると、最初はもの凄く難しく感じますが、次第に読みとれるようになってきます。一時間のトレーニングで、微表情検知正答率が40パーセント(トレーニング実施前のテスト成績)から80パーセント(トレーニング実施後のテスト成績)にまで向上することがわかっています。またトレーニング実施後、微表情検知トレーニングを何もしていなくても2~3週間、持続することがわかっています。つまり、微表情を読みとるスキルは意外に早く習得でき、身に付いたスキルは一定期間維持される、ということが言えます。

アイドルの笑顔が突然消える

 微表情は、犯罪者や一国の首脳の表情だけに表れるわけではありません。例えば、アイドルの表情にも表れます。アイドルや芸能人は人気商売ゆえ常に笑顔です。ファンの方にとって、彼ら彼女らの笑顔は癒しなのでしょう。自分の好きなアイドルが何を考えているのか、好き嫌いは何だろう、コンサートや握手会で自分に向けられた笑顔にどんな意味があるのだろう……等々、色々なことが頭をめぐり、そんなことを想像しているのも楽しいひとときなのかも知れません。

 アイドルの本心を知りたい―それならば、表情に注目しましょう。