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 1つ目のケースは、アイドルグループAKB48の総選挙(メンバーの人気をファン投票で決めるイベント)です。メンバーの松井珠理奈さんが、3位に選出された年がありました。「第3位、松井珠理奈」と発表されたとき、松井さんの顔がアップでモニターに映し出されました。松井さんの表情は、笑顔。口角が引き上げられ、頬が引き上げられる動きを伴った笑顔です。これはデュシェンヌ・スマイル(発見者のフランス人生理学者、G・B・A・デュシェンヌ・ド・ブーローニュの功績を称え命名)と呼ばれ、心から幸福を感じているときに表れる笑顔だということが知られています。

 一方、いわゆる、目が笑っていない笑顔、と言われるものがあります。これは愛想笑いの典型で、口角は引き上げられているものの、頬は引き上げられず、目の周りの筋肉が動いていないのです。心から笑っている場合は、目の周りの筋肉が動き、頬が引き上げられ、目尻にカラスの足あと状のしわが出来ます。この動きは意図的に作ることが難しいのです。ゆえに、目尻のしわの有無を確認すれば、本心からの笑顔か愛想笑いかを見抜ける、そんなふうに巷では説明されています。

松井珠理奈 ©文藝春秋

松井珠理奈さんの笑顔が消える瞬間

 この見分け方は、半分正解で半分不正解です。以前、某テレビ番組に出演した際、お笑い芸人のロザン菅さんの表情分析を依頼されました。その表情は作り笑いだったのですが、著者は「本当の笑顔と遜色なく、素晴らしい」と称えました。ロザン菅さんは、愛嬌あるニコニコ顔で「こんなの余裕~」と答えていました。ロザン菅さんに限らず、テレビに出ているアイドルや芸能人の方は、作り笑顔、つまり、愛想笑いを本当の笑顔のように見せることに長けていると考えられます。一般的には意図的に動かすことの難しい目の周りの筋肉でも、練習しているうちに動かせるようになるのです。ですので、目尻のしわの有無だけで本当の笑顔かどうかを判断するのは積極的には勧められません。

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 こうしたことから考えると、松井さんの笑顔も愛想笑いだったのかも知れません。「ん?第3位になれて本当に嬉しかったんじゃないの?」。そんなふうに思われる方もいらっしゃるかも知れません。アイドルや有名人の笑顔を観るとき、本心を知りたいと思うのならば、観察すべきポイントは、デュシェンヌ・スマイルよりも、笑顔の隙間からこぼれ出る微表情や笑顔が消える瞬間です。

 実は松井さんの場合、デュシェンヌ・スマイルが生じながら嫌悪の微表情が漏洩していました。鼻の周りにしわが寄る動きです。臭いものを嗅いだときや、自分にとって受け入れたくない出来事に遭遇したときに生じます。つまり、第3位という結果を受け入れがたく、悔しい気持ちであったと推測することが出来るのです。この順位に大満足ということなら、デュシェンヌ・スマイルだけで嫌悪の表情が生じることはないと考えられます。松井珠理奈さんの勝気な性格、闘志を垣間見た瞬間だと思いました。