スキャンダルに衝撃映像……。ドギツイ「バズり」ネタばかり目立つSNSの中にあって、人をほんわり和ませて人気の異色コンテンツがある。「かわいい浮世絵」だ。
たとえば、「ほんとに猫が炬燵で丸くなってる!」という浮世絵の一場面。鈴木春信《水仙花》の画面中央あたりに描かれたものだ。ぬくぬくと心地よさそうな表情を浮かべる猫の、なんとかわいらしいことか。
歌川広重《江戸高名会亭尽 亀戸裏門》には、画面左下に愛らしき3匹の子犬が。雪の中をぐるぐる歩き回る様子を目にしたとたん、胸がキュンと鳴る。
知識・情報量が増えてくれば、よりおもしろくなるはず
これらをTwitterやnoteでどしどし発信し紹介しているのは、日野原健司さん。開館42周年を迎える浮世絵専門館、原宿・太田記念美術館の主席学芸員である。
「浮世絵の楽しさを知ってもらいたい一心です。広く興味を持ってもらえそうな絵を当館のコレクションからあれこれ探して、せっせとSNSにアップしています。いろんな浮世絵を目にして知識・情報量が増えてくれば、好き嫌いや良し悪しもわかるようになってきて、よりおもしろくなるはずですから」
浮世絵といえば、歌舞伎の場面を写した役者絵に美人画、富士山を描いた風景画など、型にハマったものばかりでしょ? との勝手なイメージがあったけれど、こんなかわいい絵柄もたくさんあるものなのか。
浮世絵をもっと気軽に、自由におもしろがってほしい
「探せばあるものなんです。浮世絵とは江戸の庶民が楽しみのために買い求めたもの。いまでいえばポスターや雑誌、インターネット記事などにあたるでしょうか。ですから題材は多岐にわたるし、細かいところを見ていくと当時の人々の暮らしがあれこれ描き込まれていたりする。なので丹念に探すと、かわいい動物の姿なんかも見出せるわけです」
なるほど浮世絵は江戸の世の、ビジュアル重視の情報誌みたいなもの。そう考えれば、何気ない日常がこんな仔細に描かれているのも不思議じゃない。
「炬燵で丸くなる猫以外にも、浮世絵の中には私たちの共感を呼ぶものがたくさん含まれています。それはそうですよね、200年ほど隔たっているとはいえ、同じ土地で暮らす人の生活感覚はそう大きく変わったりしない。文化は継承されていくものであって、『わかる、わかる』と思える部分が多いのは当たり前。江戸人の心をつかんだ浮世絵なら、時代を経ても魅力は見出せるはずだし、今の時代に照らせばさらなるおもしろさを付け加えられるかもしれません。浮世絵をもっと気軽に、自由におもしろがってほしいですね」