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江戸と現在の世相を照らし合わせて、企画を練る

 江戸の庶民が親しんだ浮世絵は、現代の私たちの胸にもきっと響く。そんな確信をもとに、日野原さんはSNSでの浮世絵発信を続けている。

 もちろん本業の学芸員の仕事に全力を傾けつつ、である。というよりSNSでの発信は、学芸員としての仕事をまっとうするための一手段。ひとりでも多く浮世絵に愛着を持ってもらい、美術館にも足を運んでほしいとの思いからやっていることだ。

 日野原さんが主席学芸員を務める太田記念美術館では、概ね毎月、新しい展覧会を開催している。3人いる学芸員が持ち回りで担当しているとはいえ、よくそんなハイペースで企画を発想し、現実化していけるものである。

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日野原健司学芸員 (撮影:釜谷洋史/文藝春秋) 

 毎月展示替えをするのには、何か理由が? お客さんを飽きさせないようにとの配慮だろうか。

「もちろんそれもありますが、浮世絵特有の必然的な理由もあるんです。浮世絵は光に弱く、長時間浴びると退色してしまう。後世にも末長く保存状態のいい浮世絵を見てもらうためには、一回ごとの展示期間はできるだけ短くし、いちど出したら何年かは間を置かなければいけません。

 美術展はふつう6~8週間くらいの会期が多いでしょうけど、浮世絵だと4週間以内に抑えたいところ。結果、毎月新しい展示をしていかなければということになるのです」

「江戸高名会亭尽 亀戸裏門」より、雪の中で遊んでいるようすの子犬3匹 (提供:太田記念美術館)

どんどん新機軸を発想していくうえでのコツは?

「現代の若い人にも関心を持ってもらえる切り口はないだろうかと、いつも探してはいます。従来の浮世絵の解釈やカテゴリー分けにとらわれないで、新しい見方を思いつきたいから、今の世の関心事を浮世絵と結びつけられないかとアンテナ張っているつもりです。SNSで発信するのも、世間の反応を窺うアンテナのひとつという面はありますね。

 また、浮世絵それ自体を虚心坦懐に見直して、隠れたおもしろさを探すことも常に心がけています。私も含め人は有名な絵に対して、パッと見て何かがわかった気になってしまい、意外に細かいところまでは見ていなかったりするもの。改めて細部に目を凝らすと、あんなところにこんなものが描かれていたのかと、驚きの発見に出遭えたりしますよ」

 太田記念美術館で現在開催中なのは、「信じるココロ」展。こちらはどのように発想され、つくられていったのか。