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江戸の人たちは浮世絵から情報を得ていた

「これは子どもが罹りやすい病気だった疱瘡除けとしてつくられたもの。疱瘡は失明の恐れがあったので、目を守るという意味を込めて大きな目のミミズクを描いたのでしょう。赤は病気を祓う色と言われていたので全面赤色で刷ってありますね。これを壁に貼ったり贈りものにしたり、御札代わりに使っていたと思われます」

歌川国芳「木菟に春駒」(提供:太田記念美術館)

 こうして見ると、浮世絵はまさに江戸の人々の生活に密着していたことを実感する。

「そうですね、浮世絵とは芸術品として崇められるようなものではなく、先にも言いましたように人々の暮らしのなかでメディアとして機能してきたもの。私たちがテレビや雑誌、インターネットで情報を得るように、江戸の人たちは浮世絵から、『最近はこういうのが流行ってるのか』『こんな噂話があるのかい』と情報を得ていました」

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(撮影:釜谷洋史/文藝春秋) 

 ただ、この手の題材や絵柄の浮世絵は、他であまり目にしたことがない。

「古い雑誌をいつまでも残しておく人があまりいないように、流行を扱った浮世絵は情報を摂取したあと、日々捨てられていく存在でしたからあまり残っていないのです。コレクションの対象にもなりづらいですし。

 浮世絵のなかにも当然ヒエラルキーがあって、役者絵や美人画が上位なのに対して、幕末につくられた民間信仰にまつわる浮世絵に芸術性など認められないとされることが多いです。今回の展示品も、市場価格はけっこうお手頃だったりします。

「かわいい浮世絵」「ヘンな浮世絵」は、まだまだ尽きない

 でも、実際に観ていただければわかると思います。幕末の流行画にも絵としての魅力はたっぷりあると。展示を通して、浮世絵の幅広さや奥深さを示せていたらうれしいです。

 先に紹介した動物の絵についても同じことが言えます。動物が描かれたものは、ヒエラルキーとしてはやっぱり下のほう。それでもかわいい絵や魅力的な絵はたくさんあるし、現代の感覚で眺めれば新しいおもしろさが見つかったりもしますからね」

作者不詳「大都会無事」 (提供:太田記念美術館)

 では、日野原さんが繰り出す「かわいい浮世絵」「ヘンな浮世絵」は、まだまだ尽きない? 

「そうですね、じつは犬や猫のかわいいところは、うちの所蔵品のなかで目につくものはだいたい紹介しているんです。ただ美術館として作品の購入は毎年続けているので、そこからまたかわいらしい絵が出てくるかもしれません。ご期待いただければ」

 日野原さんの発信はインターネット上のものとリアルの展示、合わせて味わうとより楽しみが増していく。ぜひ原宿での展示にも足を運んでみたい。