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 特にこの30年は新自由主義によって、「自助だ、自己責任だ」と言って共同体の枠組みを掘り崩し、人々を孤立させてしまった。そうすると、ますます皆と同じようにマスクをしていないと安心できないことになります。完全な悪循環です。

私たちは「1億総転換」でしか変われないのか

與那覇 不思議なのは、オミクロン株は特性がこれまでと大きく異なり、「罹りやすいが重症化しにくい」ことがはっきりしている。にもかかわらず多くの日本人が、従来株の際にとった「意見や方針を変えられない」のはなぜなのでしょうか。

浜崎 日本人は目先の「調和」に気を取られるので、一度、枠組みを決めて動き出してしまうと、なかなかそれを変えられません。患者ではなくて、そこで動いている関係者に迷惑がかかるのを恐れるからです。

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與那覇 途中で路線変更ができず、破局まで行きついてからの「1億総転向」でしか変われないあり方は危険です。文字どおり、かつての敗戦の繰り返しになってしまう。

浜崎 私もそう思います。今回のことで言うと、路線変更できない典型例が濃厚接触者の待機問題です。感染者は最短10日間で出勤できるのに、濃厚接触者は接触したタイミングによっては最大20日の隔離が求められるという不条理な事態がまかり通っていました。オミクロン株の特性に応じて、濃厚接触者の扱いも変えていけばいいんですが。

 事態に応じて対応を変えていくということが本当に苦手なんですね。

新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長

與那覇 2020年春の第1波では「国内で40万人以上が死ぬ」との予測が飛び交い、街路から本当に人が消える厳格な自粛が実現しました。しかし緊急事態宣言解除時の死者数は、なんと900人弱。この「空振り自粛」のトラウマが悪い方向に作用していると思うんですよ。

 それこそ戦争もののドラマや映画が典型ですが、「耐えに耐えたが、そこには意味があった」という話が日本人って好きじゃないですか。逆に、「全部無意味でした。ゼロベースで見直しを」は我慢ならない。

浜崎 その分「人がいい」とも言えるのでしょうが(笑)。

與那覇 結果として第1波以降、日本人は「いやいや。ワクチンが普及するまで『持ちこたえる』ための自粛だったんだ」とする物語に、無自覚に飛びついた気がします。だから人流抑制の効果や、ワクチンの安全性を少しでも疑う人は、不愉快なので非国民扱いして排除する。