最大の被害者が子供であり続けるという事実
以上がAさんの証言だ。男女間の問題は、当事者しかわからぬ問題が大半で、外部者が一刀両断に白黒をつけることは難しい。それがゆえに、そうした男女間の問題に発生する離婚訴訟、また子どもの親権問題、監護権の問題など非常に機微に触れる問題は、その調停を担う人間が可能な限りの最善の努力をすることが前提でなりたっている。そうした最善の努力を前提にしていればこそ、当事者たちもその調停案なり、勧告を受け止める。けれども、その調停にあたる調査官などに予断や偏見があれば、家庭裁判所が下す判断は意味をなさないばかりか、むしろ”犯罪”への加担とさえいえる色彩を持つことになってしまう。
今回のケースを例に取れば、調査にあたった者たちの調査は予断の上になりたったものである可能性が高く、最善の努力、調査をしたとは言い難いのではないだろうか。問題なのはこうした不十分な調査によってくだされた判断により、子どもが最大の被害者になってしまうことだ。
2019年、児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は19万3780件にも及ぶ。子ども支援専門の国際組織である公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」は、2017年に全国の20歳以上の男女2万人を対象に体罰等に関する意識調査をアンケートで行った。その中では子育て中の親1030人を対象に実態調査も行われた。その中で「子どもの言動にイライラする」「孤独を感じる」「家に引きこもり、子どもを連れての外出がむずかしい」などの意見が多数寄せられた。日常的に子育てに困難がある母親には、過去に子どもを叩いたことがある頻度が高いこともわかった。こうした体罰はもちろんだが、それ以上に深刻でもあるのが心理的な虐待だ。今回、読者に紹介したケースも同様だが、児童相談所が対応した虐待相談19万3780件のうち、実に10万9118件が心理的な虐待だった。
子育ては夫婦関係と表裏一体だとも言われる。良好な夫婦関係が保たれている家庭に児童虐待は極端に少ない。働く環境が激変し、さらにコロナがそれに拍車をかけ、夫婦は新たな関係の構築を強いられる。また役割分担の見直しも迫られる中、そうした歪みが子どもに向けられる。大きく社会構造が変化しようとしている一方で、そうした問題を仲裁する家庭裁判所の対応は従来のままだ。
そして、その最大の被害者が子どもであり続けるという事実も変わらない。2月20日には神奈川県大和市に住む上田綾乃容疑者(42)が2019年8月、自宅で当時小学1年生だった次男の雄大くん(7)の口や鼻をふさいで窒息死させたとして殺人の容疑で逮捕されるという痛ましい事件が起こった。雄大くんの場合、児童養護施設への入所を勧めた児童相談所の判断を横浜家庭裁判所が却下し、虐待を繰り返す母親の元に雄大くんを戻すこととなってしまったことも忘れてはならない。横浜家裁がどのような調査をしたのか、しっかりとした検証が今後求められるだろう。