皆さんはカレーを食べたとき、「甘い」「辛い」という言葉だけでおいしさを表現しているのではないだろうか。しかし、カレーの味はそれだけではないはずだ。カレーをじっくり味わうと、さまざまな味わいを楽しめる。では、「甘い」「辛い」以外にどうやってカレーの味を表現すればいいのか――。
ここでは、味にまつわる言葉を研究し、情報交換をしている言語研究者集団「味ことば研究ラボラトリー」の著書『おいしい味の表現術』(集英社インターナショナル)から一部を抜粋。就実大学教授の小田希望氏が、カレーの味のおいしさをわかりやすく伝える方法を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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カレーの全体像
よく行くインドカレーの店の2種盛り(半々・あいがけ)は、厚みのある丸い皿の12時の位置から6時の縦一直線に黄色いサフランライスの小丘が伸び、右側に赤茶色のサラッとした トマトベースのチキンカレー、左側にはダル豆に薄切りの玉ねぎ、まだ完全には溶けきらないざく切りトマトが入ったオレンジ色のダルカレー。そこに緑鮮やかなパクチーが散らされる。 トッピングに特製スパイスがまぶされた半熟卵を注文すれば、とろっと艶のある黄身がライスにのって食欲は頂点に。
カレーのおいしさは全体像からはじまる。ライスとルーの盛りつけ方や全体の色合いは? 具やトッピングの配置は? まずは昔ながらの日本のカレーライス。おおよそ次のようなものでなかったか。
「うちのは昔風ですが、いいですか 」
鋭いカウンターパンチを食らった。
昔風のカレー、大いに結構。ぜひ食べたいと、出来上がりを待ちかねた。
運ばれてきたのは、まさに願った通りのカレーだった。
まず、見た目の色味に魅せられた。
なんとも懐かしき、黄色いカレーなのだ。
しかもカレーがデコボコしている。ジャガイモやニンジンが、切られた形そのままだ。肉も同じである。
(山本一力「洋食屋さんのキングだ」)
見た目はいまどきの「映(ば)える」感じではないが、白いごはんにたっぷりとかかったカレールーの姿はなつかしさと安心感を与えてくれる。