カレーを“視”食したあとは実食。カレーをひと口食べ、ルーとライス(あるいはナン)をじっ くり味わうと様々な味が現れる。どうやってカレーの味を表すか。まずは、ストレートに甘い、 辛いなどの表現から。
カレーの味の中心
辛味・甘味・酸味を基本におこう。カレーといえばまず辛さ。カレーの要である香辛料の辛味成分には食欲増進作用もあり、カレーのおいしさになくてはならない。しかし、辛味は味覚に関わる基本五味(甘味・塩味・酸味・苦味・旨味)には含まれない。正確には辛味は痛覚で感じるものだが、口で感じる感覚なので味に入れよう。
吉行淳之介は父が作るカレーの思い出をこう語る(下線は著者)。
私の父親は、料理自慢で、しばしば台所に入ってフライパンを握ったり鍋をかきまわしたりしていた。彼に言わせると、「ライスカレーは猛烈に辛くなくてはいけない」というわけで、ときおりつくってくれたものは、舌が痺れるくらい辛かった。ハアハア息をはきながら、水を飲み飲み食べたのも、懐しい思い出の一つである。
(吉行淳之介「ライスカレー」)
マイルドな辛さ、心地よい辛さもあれば、後をひく辛さ、辛さが熾烈(しれつ)である、舌が焼けるような辛さ、つきぬけるような鮮烈な辛さ、さらには「やったら辛くて味なんかわかりゃしない」「あの辛さたるやまともじゃなかった」(浅野哲哉「衝撃のカリー体験」)ほどの辛さまで様々である。辛い、ピリ辛、スパイシーはシズルワードでもある。カレーのおいしさを伝える大切なキーワード。
辛さのバリエーションを表現するのにオノマトペも有効だ。ビリビリと舌が麻痺しそう、舌にピリッと刺激が伝わる、後味がヒリヒリするほど辛い、口の中がピリピリ(ピリリ)と辛い、 スパイスで舌がジンジンする、のどの奥から食道までカッカしてくる辛さ、など。