おいしいラーメンを食べると、ついつい「うまい」「いい旨味だなあ」のような、ありきたりな表現をしてしまう。もちろん、それが悪いわけではない。しかし、もし「中毒になる」「旨味の大波が押し寄せる」と比喩で表現できれば、ラーメンのおいしさの伝え方が広がりをもつようになるのだ。 

 ここでは、味にまつわる言葉を研究し、情報交換をしている言語研究者集団「味ことば研究ラボラトリー」の著書『おいしい味の表現術』(集英社インターナショナル)から一部を抜粋。札幌学院大学教授の山添秀剛氏が、ラーメンの味のおいしさをわかりやすく伝える方法を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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字義の街から比喩の森へ 

 ラーメンの「味」とその「見た目」を表す味ことばの基本は、味評価や味覚を文字どおりに表す。それは食味表現の内側にある。この範囲内だと、味については「おいしい」や「絶品だ」など、また、ラーメンの見た目については「うまそう」や「白濁スープ」などとしかいえない。

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  しかし、この境界を越えると、そこは文字どおりではない世界が広がる。比喩の世界といってもいい。ただし、この世界も一様ではなく、中心から距離が離れるにつれ、文字どおりではない程度、つまり比喩性は色濃くなる。字義世界の境界と近いほど、その比喩表現はよく使われ定着しているため、ときには比喩とは気づかないほど慣習性が高い表現もある。 

 ただし、慣習性が高くなると比喩の鮮度が落ちることがある。たとえば、「腰のある麺」「病みつきになるスープ」「山のようなもやし」などがそうだろう。よく目(耳)にする何の変哲もない表現。それぞれ文字どおりの表現に近い形に変換すれば、「弾力のある麺」「何度も味わいたくなるスープ」「たくさんのもやし」とさらに平凡になる。 

 しかし、字義の世界から遠く離れれば離れるほど、比喩の森へ奥深く踏みこむことになり、 そのぶん比喩表現の鮮度は高まる。馴染みがない、変わった、人目を引くことばのたぐい。これをラーメン雑誌から探そう。これ以降の用例は、ムック『TRYラーメン大賞』(講談社) の「第20回(2019-2020)」版と「第21回(2020-2021)」版から引く。とくに表記がないものは、ほぼこの2冊からの引用である。このムックは、評論の内容だけでなくことば遣いも興味深い。