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「ラーメンの味を、貴婦人・壊れたブレーキ・カオス・変態に…」絶品ラーメンを食べたときに使いたい“おいしさの表現術”とは

『おいしい味の表現術』より #2

note

 ラーメンの味は“もの” 

 ラーメンの味を生き物の観点からとらえる例をみた。次に、生命が宿らない、物理的な物体などの具象的な“物”、あるいは実体を伴わない概念などの抽象的な“モノ”に喩える例をみよう。 

「この味は中毒性あり」や「病みつきになるスープ」はどうか。自制できぬほど何度も味わいたくなることを、薬物やアルコールなどの病的な中毒・依存症状に見たてる。発想は、ラーメンの〈味は薬物〉。 

 「鴨の滋味と切れ味鋭い醤油のつけダレが好印象」「シャープで切れのある味わい」「日々磨き上げる味」「味が研ぎ澄まされ、刺さる一杯」「オトナの魅力溢れる燻し銀のような味わい」などに共通する見方は何だろう。答えは、切れ味鋭い・シャープ・切れのある・磨き上げる・研ぎ澄まされ・刺さる・燻し銀、の語群が示す刃物にまつわる見方。コクやキレのキレの背後には、〈味は刃物〉の発想があるのだ。 

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 「麺のうまさが爆発」「鶏の旨みが炸裂するスープ」「旨みが味覚中枢を直撃」「これそ“貝心”の一撃」「シジミの旨さがズドン」「炙った燻製チャーシューの破壊力」などはどうだろう。ラーメンは文字どおり爆発も炸裂も破壊もしない。やはり比喩の世界である。ラーメンの〈味は爆弾〉という見方か。応用すれば、「辛味噌と謳っているものの不発」「味玉の意外なうまさが誤爆」「貝ダシにロックオンされた」などの表現も考えられる。

 「奇をてらわない直球の汁なし」をみよう。この例では、汁なし麺の味を投球に喩える。ひとつの丼に麺と具とタレのみの汁なし麺もいまやラーメンの1部門を占めるほど人気があり、そのバリエーションは多彩だ。担々麺から魚介系和風まであり、具材も厚切りチャーシューはもちろん、サーモンにイクラ、カツオチップスまで。様々な汁なし麺に手をだしても、やはり原点回帰したくなって、「もっとも標準的な汁なし麺」を、投球でもっとも標準的な球種ストレートになぞらえる。野球の喩えはほかに、「一杯入魂」など。

  野球から他のスポーツに目を移せば、「パンチのあるヘビー級の味」「衝撃の旨みでノックアウト」はボクシングの喩え。「旨みの合わせ技」「舌に脳にガツンと響く」は柔道などの格闘技だろう。 

 ラーメンの〈味は野球・格闘技〉という発想を垣間みた。これを応用すれば、「場外ホームランのつけ麺」「麺よしスープよしチャーシューよしでTKO」「辛味噌のボディーブロー」 「きれいな一本勝ちのダシ」などが可能だろう。