ラーメンの味をどのようにとらえるか
漫画『美味しんぼ』の例として「ラーメンの味は様々な味の要素による連立方程式で決まります」と「その解答は味のマトリックスで得られる」を挙げた。これらはラーメンの〈味は数学〉というとらえ方だろう。連立方程式やマトリックス(行列)以外の例はどうか。 「引き算系のラーメンが増える中で、あえて足し算でおいしくまとめている」。ラーメンには構造がある。それを形作る要素をどのように組み合わせて調理するかを算数に見たてる。そこには当然、解答があるはず。「汁なしの模範解答というべき一杯」。さらに、模範解答はテキストに載っているだろうから、「動物魚介のつけ汁に酸味を付与した教科書のような一杯」という表現も考えられる。
ラーメンの味は様々な要素が調和することで成立するという考え方もよくみられる。ラーメンの〈味は調和〉。「シジミの旨みと醤油の香りのバランスが秀逸」「麺と濃厚つけ汁が拮抗する魂の一杯」「重厚なスープにもっちり麺がマッチ」「動物系と魚介系が織り成す味と香りのハーモニー」「自家製麺とつけ汁のコラボレーションが見事」「甘めのスープと太麺が相性抜群」「鶏白湯(とりぱいたん)とカレーのマリアージュ」など。バランス・拮抗・マッチ・ハーモニー・コラボレー ション・相性・マリアージュと、物と物の力の均衡から人と人の心の均衡まで様々な調和になぞらえる。
ラーメンの〈味はX〉――このXにここまで人や刃物、数学などが入ってきたが、Xはまだほかにもある。味とXに何らかの類似性を感じつつ、Xが食の領域から離れれば離れるほど、 その比喩表現は斬新でかつ鮮度はあがる。ただそれにつれて、理解がむずかしくなるおそれもあるが。
最後に奇抜な喩えの例をみよう。味玉塩らぁ麺を評して「『バターを入れたのでは 』と思うほど甘いオイルがスープとベストマッチ。貴婦人のような『静』の塩ラーメン」。濃厚ホタテそばに対して「とにかくホタテに振り切り、いい意味でブレーキが壊れた感じ」。極太豚骨ラーメンを喩えて「ハードでカオスな一杯」。豚そばに対して「すべてが規格外の『変態』豚骨ラーメン」。ラーメンの味を、貴婦人・壊れたブレーキ・カオス・変態に喩える。それぞれいわばスポットライトの当たる部分が異なり、そのおいしさのニュアンスが変わる。味の上品さ・限度・混沌・異常さの観点が前面にでる。