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ラーメンの味は生き物 

 ラーメンの評価で一番大切なのは味そのものだろう。そのおいしさを文字どおりのことばでは伝えられないとき、比喩が登場する。その比喩もいろいろ。興味深いことだが、ラーメンの味を何に喩えるか、そこには多彩な発想がある。第一に、ラーメンの味を生命が宿る生き物としてとらえる例をみよう。まずは人間になぞらえる例から。 

「腰のある麺」「一杯の中のさまざまな表情」「紳士的なにぼしラーメン」「貫禄たっぷりの旨み」では、腰・表情・紳士・貫禄という本来は人専用の語を用いて、麺の弾力・味わい・上品さ・豪勢さを表す。「醤油ダレが主張するスープが美味」や「食べ手を選ばない一杯」の主張する・選ばない主体は、もともと人のはず。比喩としては、タレが効いている様や万人受けする味つけを表す。これらには〈味は人〉という発想が関わる。人に喩える類例はほかにも、「味の骨格」「優しい味」「一晩寝かせた味」などがある。すべて擬人法と理解できる。

  豚骨豚そばに対して「ケモノ感あるスープとバキバキした麺が美味」、煮干しラーメンを評して「塩みやえぐみを巧みに飼い慣らした見事な一杯」、まぜそばを喩えて「口の中で麺が暴れる。躍動感がある」はどうだろう。ケモノ感・飼い慣らした・暴れる、などから操るのが容易でない動物に喩えていることがわかるだろう。野趣や野性味を〈味は動物〉の観点からとらえる。人にはないワイルドさが前面にでる。 

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 味を人や動物に喩える例をみた。もっと広く、生命の営みという大きな視点からみることも可能。「名店のDNAを受け継ぎ」や「味の進化」では、本来は味に無関係なDNAや進化で描写する。名店の味の真髄を生物の遺伝子の本体たるDNAに、味の改善を生物学的な進化論になぞらえる。発想は〈味は生命〉。地球そのものも大きな生命体だと考えれば、「塩ラーメンの最高峰」や「次々に押し寄せる旨みの波」など、自然(現象)に喩える例も加えていいかもしれない。〈味は自然〉という見方である。