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3秒先の未来

 最後に、サッカーという競技の魅力とファンタジスタの関係についても考察してみたい。サッカーという競技が世界中でここまで愛される要因の一つとしても、ファンタジスタの存在は無視出来ないものがある。皆さんも一度想像していただきたい、ファンタジスタの存在しないサッカーというものを。何とも味気ないゲームになってしまうのではないだろうか。私自身、もしサッカーにファンタジスタがいなかったら、ここまで惹き付けられることはなかったであろう。マラドーナ、プラティニ、ジダン、ロナウジーニョ、メッシ……。こういった歴代の名手たちが多くのファンに愛され、今もなお語り継がれているのはその創造性溢れるプレーゆえである。

圧倒的なテクニックでサッカーファンを魅了したロナウジーニョ ©JMPA

 サッカーでは元々、ピッチレベルでプレーする選手の視界は極めて限定的だ。一度ボールを蹴ってみればよく分かるが、俯瞰の視点で見ている観戦者とは別世界がそこにはある。しかし、中にはピッチ上でプレーしながらまるで俯瞰の視点で見えているかのようなプレーが出来る選手もいる。彼ら一流選手のプレーは俯瞰で見ているこちらの意図を汲んだように的確に流れていくので、見ていても非常に心地好い。そしてさらにごく一部、俯瞰で見ている我々でも気が付かないようなパスコースを見出したり、思いもよらないプレーで局面を打開する特別な選手がいる。個人的にはこの、自分の想像を裏切られた時の驚きこそ、サッカー観戦における最大の醍醐味だと思っている。そこには勝敗を超えたサッカーの喜びがある。だからこそ想像を超えたプレーをする選手のことを、人々は「ファンタジスタ」と呼んで崇めるのではないだろうか。

感嘆のため息と地鳴りのような歓声

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 そのファンタジスタが繰り出すプレーの中でも花形と言えるのが「スルーパス」である。とにかくスルーパスの下手なファンタジスタはいない、と言っても過言ではないぐらいセンスが問われるプレーだ。ドリブルによって相手を引き付け、スルーパスで逆を取る。「個」が一瞬の閃きで「組織」を崩す瞬間だ。スルーパスが出された瞬間、ドリブルに吸い寄せられていたDFは逆方向に重心がかかっており、誰もボールには反応出来ない。ボールに触ることが許されるのは唯一、パスの受け手だけである。この絵を、パスを出す刹那に頭の中で描けるかどうか。この特別な能力こそ、ただの名手とファンタジスタとを分ける境界線ではないだろうか。彼らには「3秒先の未来」を見る力がある。