2年半かけて西田会長はようやく高品質のBDFの製造に成功する。その後、製造プラントを敷地内に建設、自社のトラックを廃油から作ったBDFで走らせることができるようになった。
“ラーメンの残ったスープ”処理問題でひらめいた名案「うちの会社が引き取れば…」
そんなBDFの製造も軌道に乗り始めた2013年のこと、ラーメンのチェーン店の社長から、豚骨ラーメンのスープの飲み残しを捨てるのが大変だという相談を持ち掛けられた。
なんでも、油が原料になっているスープはむやみやたらに捨てることができず、それらを破棄するためにはお金もかかっているのだという。西田会長はラーメン店からサンプルとしてスープの液体をもらい、1週間考えてある名案を思いついた。
「ラーメン店から出た廃油を無料でうちの会社が引き取れば、BDFの原料を効率よく回収できると思ったんです」
思い立ったらすぐ行動の西田会長。油を抽出する機械の開発に着手し、ラーメンの残り汁からラードだけを分離する『ラーメンとんこつカット君』という装置を完成させた。その機械を取引先のラーメン店の厨房に置いてもらい、残ったラードだけを回収、それを原料にしてBDFを作る仕組みを作り上げた。
大学の教授が視察に、アメリカの大学で論文にも…世界的にも珍しい“動物性油のBDF”
一般的にBDFは菜種や大豆などの植物が原料となるケースがほとんどだが、西田商運では豚骨スープのラードを使った動物性油からもBDFを精製し、植物性油とブレンドして使用している。動物性油からBDFを精製した事例は非常に珍しく、大学の教授が視察に訪れるほど画期的なことだった。製造する技術は実用新案登録を受けており、アメリカの大学でも論文として発表された。
「作り方はすべてオリジナル。私の頭の中に製造方法がまとまっていて、マニュアルもありません。唯一、孫が夏休みの自由研究で、僕から聞いた話を模造紙にまとめたものが存在しているだけです」
会社の待合室には、お孫さんが小学5年生の時に作ったというBDFの製造過程が貼られていた。西田会長はその話をする時だけ、孫を思う優しい顔になっていた。
「初めて陸運局に行った時は、私の話を全く理解してくれませんでした」
現在、西田商運では、ラーメン店をはじめとした飲食店やホテル、スーパーなどから無料で廃油を回収し、自社プラントでBDFを月間3万6000リットル製造している。約170台の自社の配送トラックのうち、55%がBDFの燃料を使用している。