取材当日、BDF対応のトラックはすべて出払っていたが、ディーゼルエンジンの営業車がちょうど給油するところだったので、BDFの匂いをかがせてもらった。
豚骨ラーメンの香りがするわけではなく、色も無色透明。「加速は一般のディーゼル燃料の車よりもいいですよ」と、いつも営業車を運転しているスタッフが教えてくれた。自己着火のしやすさを示す“セタン価”の数値はBDFの方が一般的な軽油よりも高く、エンジンにも優しいという。
営業車の車検証を見せてもらったところ、備考欄には「燃料バイオディーゼル100%燃料併用」の文字がしっかりと印字されていた。
「初めてBDFの認可を取るために陸運局に行った時は、受付の人がチンプンカンプンで私の話を全く理解してくれませんでした。当時、BDFの認知度も低かったですし、給油するためには車検証に印字する必要性があることなんて、ほとんどの人が知りませんでした」
これだけSDGsが注目されている現在でも、BDFの認知度はまだまだ低い。実際、取材前に自動車整備工場で働く知人や、自分と同じディーゼル車に乗る人にも話を聞いてみたが、BDFに関する情報は皆乏しかった。
「BDFをバスに給油しているのは見たことがあるけど……」
「圧縮比が同じなら問題がなさそうだが……」
「一般的な軽油と混ぜても大丈夫だろうか……」
これらのBDFに対する不安が世の中から解消されるには、もう少し時間がかかりそうである。一般的なガソリンスタンドでもBDFが給油できるようになれば、自分も認可を取って、ハイラックスに給油して走らせてみたいと思った。
「お客さんが増えれば、お店も繁盛して廃油の回収量も増える。そうしたら、うちは…」
豚骨ラーメンのスープからBDFを作った話は、すぐにマスコミの注目を浴びた。特にSDGsがメディアで取り上げられるようになった1年ほど前からは、連日のようにマスコミの取材が来るようになった。
しかし、西田会長に浮かれている様子はまったくない。今、最も気にかけていることは、コロナによって飲食店が大きな打撃を受けていることだ。少しでもお店にお客さんが来てもらえるよう、ラジオのスポンサーになっている番組で「ラーメンとんこつカット君」を採用している飲食店を度々紹介したこともあった。