「九州に豚骨スープから軽油を作って、車を走らせている会社があるらしい」
緊迫する国際情勢で拍車がかかり、値上がりの報道が絶えない石油関連の話題。そんな折に、こんな話を聞いた。その会社は豚骨スープの飲み残しをラーメン店から集めて、石油に頼らないバイオディーゼル燃料(BDF)を製造し、運送業務を行っているという。
この話を聞いたとき、頭の中に「その軽油を給油させて下さい」という思いが真っ先によぎった。
筆者は車好きを自認する一人だ。愛車はディーゼルエンジンを搭載したトヨタ・ハイラックス。全長5メートルを超えるピックアップトラックである。そんな巨体も、この話が本当なら豚骨スープで作った軽油で走らせることができるはずだ。
“豚骨バイオ燃料”が気になる!
乗り心地は? 加速は? 燃費は?……そんな“ドライバー目線”の関心から、走ったら豚骨ラーメンの香りがするのか? といった素朴な疑問まで、気になる点が満載である。早速、自宅がある千葉県から九州まで自走して給油しにいこうと思い、福岡県糟屋郡新宮町にある西田商運に電話で取材を申し込んだ。すると……。
「BDFはどんな車にでも給油していいわけではないんですよ」
丁寧に説明してくれたのは取材の窓口の男性社員の方。日本は制度上、車検証の備考欄にBDFの使用を許可した車でなければ、勝手に給油できないという。軽油引取税の観点からも難しいということもあり、豚骨スープで作った軽油で愛車を走らせる夢はあっけなく絶たれてしまった。
しかし、運送会社が環境に優しい燃料を作る話は、一人の車好きとして非常に興味がそそられる。昨今のSDGsのブームで自動車の存在自体が社会の目の敵にされているようにも感じられるこの頃。電気自動車や水素燃料の話題も課題ばかりが指摘され、明るいニュースにはなりきれていない。
そんな中で、特に運送業は車を走らせることが商売である。西田商運の環境への取り組みを取材すれば、日本の車社会の未来が見えてくるかもしれない。車で九州まで行く必要はなくなったが、代わりに飛行機で現地まで飛ぶことにした。
16歳からトラック運転手、一代で年商27億円の会社を築きあげた男が「燃料」に目をつけた理由
西田商運の本社は、博多駅から電車で20分ほどのところにあるベッドタウンの中にあった。国道沿の駐車場には大型トラックが並び、入口近くにはBDFを給油するための計量器が設置されていた。