なぜマンガ家は政治家にならないのか
――結局、本宮先生は出馬を断念されました。あれから40年、マンガ家が政治家になった例はありません。プロレスラーや作家などと比べると一目瞭然です。なぜマンガ家は政治家にならないのでしょうか?
赤松 ひとつには、自分の作品に政治色がつくのを嫌がるというのはあるでしょう。「あの作者は○○党支持者だから」と思われてしまうと、読者は作品を純粋に楽しめないのでは、と考えてしまうわけです。
私は昔から「売れそうなものを計算で作っている」とか「マンガ屋」みたいに言われがちで、割と作品と人格を切り離して評価されます。とはいえ、自分が描いてきたキャラクターを使って政治マンガを描くかと言われれば、それはしません。人格と作品をイコールで評価されやすい作者であれば、政治色がつくのを避けるのは理解できます。
それともうひとつは、殆どのマンガ家はマンガを描くのが大好きなんですよ。あるとき、国会議員にも人気のある超ベテランマンガ家さんに「都知事選に出てくださいよ、絶対受かりますよ」と言ったことがあるんですけど、「いや、赤松くん。僕はマンガ描くのが好きなんだよね」と断られたことがあります(笑)。
――マンガ家にとっては「生涯現役」がひとつの理想なのかもしれませんね。
赤松 ほかのことは、なるべくやりたくないという人たちが多いのは事実です。ただ、私が立候補を表明したことで、政治や表現規制に対して声を上げる人が増えてくるといいな、と期待している部分もあります。
「漫画村」時代の4倍以上に膨れ上がった被害額
――赤松先生のこれまでの活動の延長上に参院選出馬があるなら、おもな活動指針は「表現規制への抵抗」となりますか?
赤松 それは重要です。私はいまの表現を取り巻く状況は、素晴らしいと考えています。一次創作者が高圧的に二次創作を禁じるわけでもなく、二次創作者が声高に権利や正当性を叫ぶわけでもない。
誰もが好きなことを表現できる現状を維持したい。ですから、これを脅かすような規制が出てきたときには、抵抗していきたいですね。
――では、政治家になったら実現したいことはなんでしょうか?
赤松 喫緊の問題は海賊版サイトへの対策です。
――「漫画村」は潰れましたが、同様のサイトはまだ多いようですね。
赤松 コロナ禍での「巣ごもり需要」によってマンガの電子書籍の売り上げは飛躍的に増加しました。出版不況と言われていますが、マンガの市場は過去最大の売り上げになっています。
一方で、それと比例して海賊版サイトの被害も増加し、被害額が「漫画村」が問題になった頃の4倍にも膨れあがっています。
――そんなに増えましたか。
赤松 こうした海賊版の運営サイトは海外が拠点になっていて、いまはベトナム系が主流です。われわれがいくら海賊版サイトを問題視しても、まだ海外の感覚だと「たかがマンガでしょ、なんでベトナムの税金を使ってまで取り締まる必要があるの?」となってしまう。
しかし、マンガ家自身が政治家になって現地に赴き、窮状を訴えれば、それが日本にとってどれだけ重要な問題なのかが伝わるんじゃないかと思うんですよね。「日本のマンガ家の中で、自分が最も海賊版対策に携わってきた」という自負はあるので、まさにお似合いの仕事だと思います。