「もう、耐えられない。死にたい。私が死んだら、父は後悔してくれるのかな。それとも、父を殺したら母も弟も明るさを取り戻してくれるのかな。犯罪歴を持った私の稼ぎで2人を支えていけるのかな……」
深雪さんの心には、さまざまな思いが渦巻いた。
深雪さんは親族に状況を打ち明けて、両親の離婚に向けた協力を仰ぐことにした。しかし、話し合いに来てもらったものの、「離婚なんてとんでもない」という古い価値観で反対されてしまう。そして、親族が帰った後、「よけいなことをしやがって!」と、父から、息もできないくらい殴る蹴るの暴力を受けることになる。
父が眠りについてから、深雪さんは母に切り出した。
「私と一緒に家を出ようよ」
深雪さんは母を連れて、一晩ホテルに泊まり、当時交際していた不動産会社勤務の彼に連絡して、すぐにも入居できるマンスリーマンションの手配を頼んだ。
「いままでずっと悪かったね。おかあさん、ずっと、どうしていいのかわからなかった」
マンスリーマンションに移って数日後の夜、外から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「いい加減出てこい、クソ女ども! ここにいるのはわかっているんだぞ!」
父は深雪さんの交際相手が不動産会社勤務であることを知っていたため、彼の力を借りてマンスリーマンションに移ったにちがいないと踏んで、母娘が泊まりそうなマンスリーマンションを回っていた。ただ、どの部屋かはわからないため、建物全体に向かって怒鳴っていたのだ。母娘が息をひそめていると、あきらめたのか帰っていった。
ところが、事態はそれで終わらなかった。寝る準備をしていたとき、母の携帯電話が鳴った。
「おまえたちが帰ってこないなら、弟を殺すぞ」
その後も、何通もメールが届いた。
「いいんだな? 迷っている暇はないぞ」
「返事をしないと殺すぞ」
「かあさんが戻ってくれば、おまえはいらないよ」
母はパニックになり、部屋を飛び出した。深雪さんもあわてて後を追うと、結局、家に舞い戻ってしまった。
ドアを開けると、弟が何も知らずにテレビゲームをしていた。
深雪さんが呆然と立ち尽くしていると、父が床に膝をついて、軽く頭を下げた。
「今回の件だけは俺が悪かった」
母が泣き崩れた。
「私は絶対戻らない!」
深雪さんがそう叫ぶと、父は言った。
「かあさんが戻ってくれば、おまえはいらないよ」
父は母を必要としていて、依存していたのだった。
翌日、母は宣言した。
「おかあさんは家に戻ります。それと、離婚はしません。もう残りの人生が短いから、おとうさんと添い遂げる」
深雪さんはすっかり心が折れてしまい、会社を辞めて、しばらくひきこもった。その頃、結婚の約束までしていた不動産会社勤務の彼から別れを切り出される。突然の出来事で、それも痛手となった。
そして母も父に殴られなくなった頃から、動悸やめまい、手の震え、不安に苦しむようになっていく。
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