新型コロナウイルス感染拡大による最初の緊急事態宣言発令から早2年。各地の観光地が受けた影響の深刻さは計り知れない。通常時は観光客で賑わう、大阪・道頓堀近辺も例外ではなく、閉店を決める店も増えてきているという――。

 ここでは、フリーライターのスズキナオさんが、「コロナ後」の大阪を歩いた記録を収めた『「それから」の大阪』から一部を抜粋。2016年にオープンした人気店「大衆食堂スタンドそのだ」について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

「大衆食堂スタンドそのだ」の店内。明るいうちから幅広い年齢層の客が集う 撮影・スズキナオ

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さまざまな年齢層が交ざり合う居酒屋

 私も「大衆食堂スタンドそのだ」にはこれまでに何度も足を運んでいる。オープンから間もないころ、「谷六(谷町六丁目のこと)に『そのだ』っていういい飲み屋ができたらしいよ」というような噂を複数の友人から聞いた。

 実際に行ってみると、大きなコの字カウンターや壁にずらっと並ぶ短冊メニューなどの大衆酒場的な要素と、鮮やかなネオン看板、飲み物の入ったグラスなどに感じるオシャレな雰囲気とが違和感なく共存していて、新鮮なバランスだと感じた。

 また、メニューを見てみても、いわゆる居酒屋の定番メニューとは違って、「アンチョビ煮卵ポテトサラダ」「セロリナンプラー漬け」など、一ひねりされたものが多く、注文して実物を味わうたびに新鮮な驚きがあって楽しい。

 東京の老舗酒場で愛されている「バイスサワー」をアレンジしたピンク色の飲み物「バイス」や、よだれ鶏と豆腐にパクチーをこれでもかとのせた「パクチーよだれやっこ」など、見た目からして印象的なメニューも多く、SNSを通じて店の情報が広がっていきやすい今の時代にも合っている。

 また、どのメニューも価格帯はあくまでリーズナブルに抑えられていて、フラッと1杯飲みにいくといった感覚で立ち寄れる雰囲気である。多くの人が締めの一品として食べていく「中華そば」も名物だ。

「大衆食堂スタンドそのだ」の客層は年齢の幅が広く、地元の方らしき老夫婦が静かに飲んでいるかと思えば若い女性たちが料理を嬉しそうにスマホで撮影していて、その隣ではスーツ姿の一人客が仕事終わりの時間を楽しんでいたりする。こんなふうにさまざまな年齢層が交ざり合う居酒屋は他にはあまりないような気がして、その点も新鮮に感じた。