新型コロナウイルス感染拡大による最初の緊急事態宣言発令から早2年。各地の観光地が受けた影響の深刻さは計り知れない。通常時は観光客で賑わう、大阪・道頓堀近辺も例外ではなく、閉店を決める店も増えてきているという――。

 ここでは、フリーライターのスズキナオさんが、「コロナ後」の大阪を歩いた記録を収めた『「それから」の大阪』から一部を抜粋。四天王寺の縁日に屋台を出していたYさんのエピソードを紹介する。(全2回の1回目/前編を読む)

毎月21日・22日に縁日が開催され、人で賑わう四天王寺。この写真はまだ静かな早朝の風景。(2021年3月撮影) 撮影・スズキナオ

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屋台の店主をするYさんとの出会い

 Yさんというその屋台の店主は「お話を聞きたいんですが」などと突然声をかけてきた私をしばらく怪訝そうに眺めていたが、後日、時間に余裕のあるときに改めて連絡することを条件に、連絡先を知ることができた。しかし、それからYさんとの予定の調整がうまくつかぬままに日が経った。

 その後、四天王寺の縁日は2020年12月になって再び中止を余儀なくされる。重症患者が急増し、病床数が逼迫したとして医療非常事態宣言が出されたことを受けての中止だった。その都度大きな判断を下すお寺側も大変だろうが、露店関係者にとっても目まぐるしく変わっていく状況に引っ張り回されるようなものだろう。

 Yさんはどうしているだろうか、と思っていた矢先のある平日の昼、「今からなら時間が取れる」とふいに電話をもらい、指定された西成区の某駅へと急いで向かうことにした。

 Yさんと合流し、行きつけの店だというアーケードの商店街沿いにある食堂でチューハイを飲みつつ、お話を伺った。