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「前は買うまで2時間半待ちやったからな」“大阪で二番目にうまい店”から行列が消えた…60代店主がコロナ後に出した答え

『「それから」の大阪』より #2

2022/03/20
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「大阪で二番目にうまい店」

 そんなYさんにとっては四天王寺の縁日も数ある商売の場所の一つだそうだが、長年お店を出しているゆえ、毎回Yさんの屋台を楽しみにくる馴染みの客も四天王寺には多いのだという。しかし、コロナ禍以降は特に高齢客が姿を見せなくなった。感染リスクを思えば人が集まる場所から足が遠のくのも必然だろう。

来客を待つ屋台(2021年3月撮影) 撮影・スズキナオ

「いつも来とった人が来んくなると心配になるわな。病気したんかなぁとかな。まあ、人出は少ななったな。前は買うまで2時間半待ちやったからな」とYさんは少し寂しそうに言うのだった。

 そのYさんが昔やっていたある屋台で「大阪で二番目にうまい店」というキャッチフレーズをのぼりに大きく書いて大繁盛したことがあった。Yさんの親方に当たる人が雑談の中で何気なく口に出した言葉がもとだったらしいのだが、「二番目にうまい」という絶妙にユーモラスなフレーズが「おもろいやんけ」と客の心をくすぐったのだという。

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「なんでもな、一番言うたらそれで終わりやねん。逃げ道がないねん。二番目言うたらまだ伸びる余地があるやろ」とそのフレーズに込められた意味を語るYさんに、逆境をユーモアに変えて乗り越える力強さを感じた。

 お互いだいぶ飲んだところでYさんが私に言った。「なんか書くんなら一度バイトして自分の目で見てみんとな。こうやって話聞くより早いやんか! なあ」と。そのときは「それもそうですねぇ」などと調子よくうなずいていた私だったが、2021年2月になってYさんから電話があり、3月のお彼岸の縁日に本当に屋台を手伝わせてもらうことになった。