「せやから前を向いてな、いかなあかん」
縁日の当日、朝7時に現地に集合との約束だったので久々に早起きして四天王寺へと向かった。早朝に四天王寺に来るのは初めてだったが、すでにこの時間から露店の設営を始めている人々も多かった。
Yさんの屋台で、私は簡単な荷物運びと、お客さんに品物を袋に詰めて渡す係を担当した。Yさんが私のために半ば無理矢理用意してくれた仕事で、ぼーっと立っているだけの時間が結構あった。特にこの日は例年に比べて驚くほど人出が少なかったそうで、私がいることがかえって邪魔になってしまっているようで申し訳なかった。
しかし、大好きな四天王寺の縁日で、「いらっしゃいませ!」などと声を出しながらお客さんに対応する日が来るなんて思ってもみなかったので、しみじみと込み上げてくる感動があった。
やってくる客の多くは60代以上かと思われる高齢の方々で、「いつもここに来るのが楽しみなの。今日は並んでないからびっくりしたわ」と話しかけてくれる人もいた。
いつもなら午前中から行列ができてもおかしくないそうなのだが、行列は昼になってもできなかった。Yさんに「今日はあかんな。もう昼で仕事切り上げてええよ」と言われ、私の屋台デビューは半日で終了となった。
「すまんかったな」とYさんからお土産をたくさんもらって、私はいつもどおり、ただのひやかし客の立場に戻った。まだ人の少ない境内を歩きながら、早くここに本当の活気が戻り、Yさんが忙しくて困るぐらいになって欲しいと思った。「人が足らんねん!」とYさんからまた電話がかかってきたら、今度はもっと役に立てるよう頑張りたい。
2021年4月、四天王寺の縁日が再び中止になることが発表された。大阪府の対応も行きあたりばったりにしか感じられず、情勢の変化に市民が振り回される状態はまだまだ続きそうだ。
一緒にお酒を飲んだ日、酔った私はYさんに「世の中、これからどうなっていくでしょうね」と聞いた。Yさんはこう答えた。
「そらいろいろ考えることはあるわな。1カ月先だけやなしに1年先も考えていかなあかんしな。在庫の管理も大変やしな。せやけどまあ、なるようにしかならんわな」
「あかんのはみんな同じや。いつも同じやねん。いつでも次はどうしようゆうて考えていくしかないんやな。コケても競艇で負けたおもたらええねん(笑)。商売は強気でいかな、絶対攻めなあかんねん。それで倒れたら、もうしゃあないねん。それが最終的な答えやな。せやから前を向いてな、いかなあかん」