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「日本の態度はソヴィエトや中国を有利にするものでしかない」石原慎太郎が論じた日米安保に対する日本の“欺瞞”とは?

『石原慎太郎と日本の青春』より #2

2022/03/25

source : 文春ムック

genre : エンタメ, 芸能, 社会

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仮想敵がないという偽瞞

 今までのべたように、過去の10年間、安保は殆ど形骸でしかなかった。そして、それをどのような詭弁が糊塗しようと、少くとも近い将来、いや現在すでにもう、安保はアメリカ側のかかえた純技術的問題から、核戦略上は間違いなく稀薄なものになりつつある。

 その原因は、米ソ競合の核兵器の技術的発展であり、両者には遅れるとはいえ、中共が、英仏をしのぐ第3の核国家として台頭して来た、例えば、相当重量の人工衛星打上げの成功に見られるような諸事実である。

 核兵器が多核弾頭化、変則軌道化され、更にフォブス、モブスといった人工衛星化されて来ると、最早、NORADのような既成の核戦略機能は用を成さなくなる。

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 その象徴的な事件として、昨年、キューバからの亡命ミグが、アメリカのレーダー網を潜って、皮肉な偶然にも、ニクソン大統領専用機エアフォース・ワンの着いていたフロリダの飛行場に亡命着陸したことがある。

 大体、NORADの警戒網は、北半球を飛んで来るICBMにのみ出来ていて、南半球を遠廻りし得る長射程のICBMには役にたたない。それに、高度100米(メートル)という超低空で侵入したミグは、従来のレーダーでは捉えにくい。この事件は、他のもっと危険なケースを想定した上で、万金を投じた国防体制が役にたち得ないということでの一種スキャンダルになったが、実際には、この上どんなに金をかけても従来の警戒技術体系では、マーブやフォブス、モブスは防ぐことはできないのである。

©iStock.com

 ということで、アメリカの核戦略における警戒防衛反撃機能の形態は現在大幅に変りつつある。PALレーダーの開発配備がそれであり、核戦略の潜水化によるULMS(Under sea long range missile system)がそれである。

 これらの機能は在来のように地上固定的ではなく、しかし、相手にするマーブ、フォブス、モブスが、その未然の迎撃が困難なものだけに、必然、自国が被爆の際の強力な報復という性格を持ち、その報復力を抑止力とするが、その引き金が互いに一旦引かれた際の混乱惨状が想像を超えるために、相手側の第一撃の確認がますます慎重に、アメリカ自身に集約され、日本は在来の機能体系下の時以上に、その圏外に置かれることになる。