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「日本の態度はソヴィエトや中国を有利にするものでしかない」石原慎太郎が論じた日米安保に対する日本の“欺瞞”とは?

『石原慎太郎と日本の青春』より #2

2022/03/25

source : 文春ムック

genre : エンタメ, 芸能, 社会

note

日米にとって危険な安保条約

 つまり、アメリカの核戦略機能が技術開発に添って一新されればされるほど、それがいかに強力なものになろうと、機能的には日本のような安保条約締結国にとっての実際の保護能力を喪い、喪うが故に、抑止力も薄らぐのである。

 そして更に、キッシンジャーやオズグッド等、米政府当事者が自ら言明しているように、後に触れるが、中共の人工衛星打上げ、MRBM(準中距離弾道ミサイル)配備、ICBMへの高い可能性によって、相対的にアメリカの核の抑止力は減ってしまった。

 以上で顕らかなように、我々が過去10年間評価し信頼して来、更に自動継続を決定した日米安保条約は、国会の答弁でも中曽根防衛庁長官が、日本の核戦略に関しては総てアメリカまかせであると言明したが、その核戦略に関しては実質的に形骸でしかなく、またその性格は更に徹底していくのだ。

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 ちなみに、アメリカにおける世論調査では、日本防衛のためにアメリカが核兵器を使用することを可としたものは48%、その内、その理由を日米安保に基づく義務履行としたのは僅か6%であった。

 改めて問うが、この状況の上で、我々は一体何のために日米安保条約を現行のような形で締結する必要があるのか。その選択の利益は一体どこにあるのであろうか。

 政府が何と答えようと、我々は、日本の危険に直接繋がりはしない、ベトナム・カムボジヤにおけるアメリカの戦争に、安保による基地供与によって、顕らかに間接的にコミットしている。

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 その事実を頭から道義的に裁くのではなく、もっと柔軟に、そうした我が方の犠牲、例えば多くの基地公害等々我々が安保への期待の代償に支払っているものが、安保という選択の中でつり合うのかどうかを考えるべきではないか。

 その犠牲が実は、万々が一の際にも報いられることがないのだとわかっているなら、日本国土に関する自主防衛の意識が経済成長の当然の帰結として高まって来ている現在、純防御的なABMをさえ配し得ないような日米安保を、過去の内容へのさしたる反省もなく自動的に継続することに、少くとも私は、大きな疑惑を抱かざるを得ない。