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「もし怪獣がいるなら、発見されなくてはならない」ネッシー探検隊総隊長・石原慎太郎が“怪獣探し”で見た人間の本質

『石原慎太郎と日本の青春』より #2

2022/03/24

source : 文春ムック

genre : エンタメ, 芸能,

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 2022年2月1日、89歳でこの世を去った石原慎太郎氏。一橋大学在学中の1956年に作家として鮮烈なデビューを果たし、1968年に政界進出後は政治家としても大きな注目を集める存在となった。

 ここでは、同氏の文筆活動のエッセンスを集めた『石原慎太郎と日本の青春』(文春ムック)から、若き日の石原慎太郎氏が「ネス湖怪獣国際探検隊」の総隊長を務めた時のエピソード、「ネス湖探検隊 怪獣はそこにいる!」の内容を紹介する。(全3回の2回目/3回目を読む)

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 ネッシーがもし実際に発見されたならば、イギリス人にとっても、彼らが自慢するウイットの格好の題材として、そのまま手つかずにほうっておくというわけにもいかなくなる。それでは世界が承知しまい。ネス湖とて、いるかいないかわからない怪物の名所としてより、地上最後の怪獣の棲息地としてより確かな名声をかち得るだろう。

 ところが、いたら捕える、その際は麻酔銃でも使ってという会話のくだりが、どういうわけかストレートに受け取られ、探索のプロモーターが日本にはるばる彼らの憧れるトム・ジョーンズやカシアス・クレイを運んだ辣腕の、ある意味でワールド・ノートリアスな康芳夫(こう・よしお)君だから、彼が女王陛下のご下命があれば捕えもしましょうと答えたジョークも、日本の興行師が女王の名を利用するのかとか、捕えればそのまま世界中見世物にしてまわるのだろうという、怪獣愛護精神や、怪獣の所有権の問題にまで発展してしまった。

 しかし、何と言っても、その背景に、昨今の日本及び日本人が、ヨーロッパで、特に歴然としてますます斜陽の旧大英帝国に与えている、その肖像の印象がある。そして、さらにその後に、前にものべた、彼らヨーロッパの白人の下意識にある有色人種への人種偏見が透いて見える。たとえば、これが西ドイツの人間たちが立てた企画なら、反応はずっと違っていたろう。

若き日の石原慎太郎氏 ©文藝春秋

 私に言わせれば、スコットランドは素晴らしく美しく、大英博物館は肝をつぶすほどものすごく、コンコルドはなかばイギリスの所産だろうが、私が6年前に買った、日本人のスノッブが最もイギリス的と信じているモーガンなどというスポーツカーなぞ、これが乗り物かと思われるほどの代物で、作りは粗雑、パーツはない、デリバリーは期限をはるかに遅れ、話にならない。

 昨今、日本の車がイギリスでシェアを増すのは当たり前の話で、顔の色は違っても、客はちゃんと自分の利益にもどって品物を選ぶのである。コンコルドやロールスロイスがあっても、そんな特製品の沽券にだけ寄りかかっているから、ロールスロイスに加えて、ネッシーにまで執着しなくてはならなくなる。