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「なんか、虚しいんだよね……」

 葛和は、技を教える前にまず、選手たちの意識を引き上げることからはじめなければならないと思った。

「フォーメーションを考えたり戦術を練ったりするのはまだずっと先のこと。まずは荒地を耕して更地を作らなければならない。闘争心を植えつけることが先決」

シドニー五輪最終予選時の葛和伸元元監督 ©文藝春秋

 葛和は練習中によく選手たちを怒鳴った。怒鳴り上げることで、眠っている闘争心に火をつけようとした。そのたびに選手たちは「チームに帰りたい」と泣き出し、あるいはプイと横を向いた。当時、葛和がぽつんと呟いたことがある。

「なんか、虚しいんだよね……」

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葛和の情熱が空回りしていた。だが全日本の監督を引き受けた以上、匙は投げられない。