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ラストシーンで「真っ白に燃え尽きた」ジョー

 ところで、『ジョー』といえば、「日本漫画史上、最高のラストシーン」とも称される、ジョーが世界戦終了後、「真っ白に燃え尽きて」コーナーで静かに笑みを浮かべながら座る場面がよく知られているが、この場面は梶原の原作になかったことが近年知られてきている。

真っ白に燃え尽きた矢吹丈 『あしたのジョー』50周年記念サイトより

 当時、梶原から受け取った原作の場面はちばも正確には記憶していないが、イメージとしては次のようなものだったという。

「試合終了後、うなだれたジョーに段平が、『お前は試合には負けたが、ケンカには勝ったんだ』といって慰める。場面が変わって白木邸。ジョーが家のベランダに座ってぼんやりと日向ぼっこをしている。彼が廃人になっているか否かは定かではない。それを見ながら静かにほほ笑む葉子(※ジョーに思いを寄せていた女性で、元・ライバル力石徹の所属ジム会長)。幸せそうな二人……」

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矢吹丈ら登場人物たち。それぞれのモデルは… 『あしたのジョー』50周年記念サイトより

 だが、ちばはこのラストに納得がいかなかった。「ここまでやってきて、『ケンカに勝ったはないじゃないか』と思った」のである。ちばは現在も、「このラストも、素晴らしいと思ったけど」と前置きした上で、「でも、やっぱりちょっと違う気がしてね」と語っている。

  ちばはすぐに梶原に電話し、「ラスト、変えますよ」と話し、一応の承諾を得た。ちばは梶原への気遣いからか、梶原には「これまで一緒にやってきたじゃないか、君にまかせるよ」といわれたと『劇画一代 梶原一騎自伝』(梶原一騎)の中で記している。しかし、梶原の実弟・真樹日佐夫(本名:高森真土)は、スポーツ紙のインタビューに対し、それとはまったく異なる状況を証言している。

ちばてつやと梶原一騎の火花を散らすバトル

「真樹氏は電話口で火花を散らした両者のバトルに立ち会っていた。

 梶原が自分の原稿を電話で伝えると、ちばさんは『これだけ長く15回戦の試合を描いてきたのに、いくら何でも段平の“ケンカに勝った”はないでしょう』と反論し、ケンカになった。梶原は『勝手にしろ!』とかんしゃくを起こし、ちばさんは『やらせてもらいます!』と電話を切った。それであの結末になった」(2010[平成22]年10月21日付デイリースポーツ)

 しかし、この時ちばにはこれといった腹案があったわけではなかった。困ったちばは、弟のあきお(漫画家・故人)やマネージャー、アシスタントらを集めてアイデアを出させ、20ほどの案を検討してみたが、どれもピンとこない。すると、単行本のゲラを第一巻から読み返していた、当時新しく担当に就いたばかりの若手編集者・吉田昌宏(その後講談社を退社)が飛んできて、「ここに何か核のようなものがないですか?」といい始めた。それは、ジョーと、彼を密かに慕う乾物屋の娘・紀子の、唯一のデートシーンだった。