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「この車両の完成イメージは、旧車プランナーである部長がインターネットから一番彼のイメージに合う画像を拾ってきて、それを再現するような形で製作しています。オーバーフェンダーなんかは既製品もあるのですが、きちんとフィットするよう3Dスキャナーでボディの型を取ったうえで作っています」(トヨタ担当者)

カーボン調のオーバーフェンダー

 オーバーフェンダーのカーボン調は、当時のカスタムには見られなかったアクセントである。こうした細かなポイント1つについても、メンバー間で長い議論が行われている。

当時の状態を忠実に再現するのか、現代的なアレンジを加えるのか……

「カスタムを加えるにしても、当時流行していたカスタムをそのまま再現すると、『今では古く見える』ということも考えられます。このセリカの場合、当時のポイントを押さえつつ、現在の流行も取り入れることで、今の若い方々にも受け入れられるデザインを目指しました」(同前)

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 当時の状態を忠実に再現するのか、あるいは現代的なアレンジを加えるのか、というのはレストアにおいて常に議論の分かれるポイントである。KINTOで扱う車両では、どちらの可能性も排除せず、多角的に「今乗りたいと思える車」の製作が目指された。

「今乗ってみるとセリカは全然ブレーキが利かなかったので、サイズを上げてより強力なものにしています。あとはパワーステアリングも後付けで入れているので、今の車と同じように片手でハンドルを回せますね」(同前)

セリカの運転席。ステアリングは社外品を装着し、定番のウッドタイプに

 旧車好きのなかにはパワステを「邪道」と考え、「重いままの方がいい」とする向きもあるだろう。実際にKINTOのラインナップでも、初代レビンには後付けしていない。車両の特性や当時のユーザー層などを鑑み、それぞれ異なるアレンジを加えているのである。

エンジンに見つかった致命的な欠陥

 8ヶ月に及ぶセリカの製作期間中、チームはさまざまな困難に直面する。とりわけエンジン周りの状態を把握し、当時の状態に蘇らせる作業には、パワートレーン開発を担う部としてのプライドが賭けられている。

「内外装は一般の業者さんでも対応できる部分が大きいですが、パワートレーンは手を入れにくいところもあります。ここでは新車開発のテストベンチを使っていますから、オーバーホールした後に、新車でチェックするのと同じような確認作業ができます」(同前)

 測定データを当時の内部資料に照らし、エンジンの状態を把握したうえで、実際の部品をひとつずつチェックしながら問題を特定していく。こうしたメーカーならではの強みは、セリカのエンジンを再生する際にも活かされた。

「最初に性能を測った時には、全然もとの出力が出ていませんでした。バラしてみたらエンジンのシリンダー内に致命的な傷があり、3週間ほどかけてボーリングなどを行い、もとの性能が発揮できる状態になりました」(同前)

セリカのエンジンルーム。メーカーとしての威信が賭けられている

 車の心臓部であるエンジンの状態を定量的に把握し、パーツの設計や適合について資料をもとに確認できるのは、レストアにおいて大きなアドバンテージである。レストアした車両は新車時と同等の出力を取り戻しているとのことだから、「当時の感覚」をそのままに追体験できそうだ。