男女合計すると目立たないが、男性のみの統計だと罹患数でトップにくるのが前立腺がんだ。2015年の予測値は約9万8000人で、前年の3位から急上昇となった。
前立腺がんの手術数で全国トップとなる東京医科大学泌尿器科の大堀理教授が解説する。
「前立腺は男性だけにある臓器で、精液の一部(前立腺液)を作る生殖機能だけではなく、排尿のコントロールにも関係しています。前立腺の病気には、前立腺肥大症や前立腺炎などがありますが、いずれもがんとの因果関係はありません。原因はよくわかっていないのが現状です」
もともと欧米の男性に多く、日本ではあまり多く見られるがんではなかったが、ここ数年で罹患数が急増している。
「罹患率は加齢に伴って上昇し、特に65歳以上で多くなり、80歳以上では20%前後の方に前立腺がんが認められるとも言われています。このため高齢化社会が進むほど罹患数も増えていきます。
食生活の変化も、急増の背景に挙げられます。戦前はほとんど食卓に上らなかったような動物性脂肪や乳製品が、危険因子として指摘されています。最近は50代の患者さんも目立ち、まれに40代での発症も見られますが、若年層での増加は食事との関連性が高いと考えられています」
進行すると起こるのが排尿障害だ。
「初期は無症状ですが、進行してがんが大きくなると尿道や膀胱を刺激し、尿が出にくい、頻尿や残尿感、排尿を我慢できない、下腹部の不快感などの症状をもたらします。さらに進行すると血尿や尿閉(尿がまったく出ない)の症状があり、最終的には骨への転移による強烈な骨痛に襲われます。
私が医師になった30年前は、この骨転移の痛みで見つかることがほとんどでした。しかし現在は無症状のうちに検診や人間ドックのオプションとなるPSA(前立腺特異抗原)検査の結果で、泌尿器科を受診することが圧倒的に多くなっています」
早期発見には、このPSA検査がポイントとなる。
「罹患数増加の原因には、検査の精度が上がったことも挙げられます。以前の検査は医師が肛門から指を入れて行う直腸診が主流でしたが、現在ではPSA検査が普及しています。血液を採取し、前立腺がん特有の物質を調べる検査で、これにより早期発見が可能になりました。50歳以上なら年に一回はPSA検査を受けてほしいですね。
前立腺がんの約1割は家族の遺伝と関係していて、父親や兄弟に発症者が一人いるとリスクは約2倍になります。また二人以上いると、リスクは5倍にもなります。こういう方なら45歳からPSA検査を受けたほうがいいでしょう」
5年生存率は手術ができれば90%台後半。治療法の選択肢が多いのも、前立腺がんの特徴だ。
「早期なら選択肢は4つあります。前立腺を完全に切除する外科手術、放射線治療、飲み薬や注射で男性ホルモンを抑える内分泌治療(ホルモン治療)、進行が緩やかなタイプにはPSAを定期的に測定しながら様子を見る経過観察(PSA監視療法)もできます。転移のない進行がんなら標準治療は内分泌治療と放射線治療の組み合わせ、転移があれば内分泌治療のみとなります。
早期の場合、最も治療効果の高い方法は外科手術。開腹手術と腹腔鏡手術以外にも、最近は手術支援ロボット『ダヴィンチ』による手術が国内でも急速に普及しました。良好な視野、精密な手術操作というメリットがあり、患者さんの負担も少ない。前立腺がんなら保険も適用されます」