9.『紙片は告発する』
発展著しいスコットランドの町キルクラノンは新町長の選出をめぐって揺れていた。その有力候補の娘ルース・エルダーは町政庁舎で働くタイピスト。彼女は父からも馬鹿にされる不出来な娘だったが、町書記官の部屋であるメモを発見、それは誰かの不正を告発するものだと周囲に洩らす。
ルースはそれを姉マーガレットの元カレ、警察署のヘミングス警部補に会って伝えようとするが、自宅で殺されてしまう。町書記官と不倫中の副書記官ジェニファー・エインズレイはメモによる不倫の露見を恐れていたが……。
人物描写も光る英国屈指のフーダニット・ミステリー。
▼ここが魅力!
小島正樹「悪意と善意を持つ“どこにでもいそうな”人達。堅牢で礼儀正しいミステリー」
朱鷺野耕一「結末を読んでから、思わず伏線を確認しなおした。人を丁寧に描き、物語を堅実に展開するこの生真面目さこそ賞賛に値する」
相川司「派手さはないが、恐喝などの社会的テーマと犯人探しが見事に融合した佳作」
青山栄「濃く入れた紅茶と合う、いかにもイギリス作家らしい味の本格ミステリ」
10.『シンパサイザー』
ヴェトナム戦争末期の1975年、「私」こと「大尉」は南ヴェトナム秘密警察長官の「将軍」の右腕として暗躍していたが、実は北のスパイだった。程なくサイゴンが陥落、彼も将軍とともにアメリカに逃れ、難民生活が始まる。
だが大尉は将軍のその後の動向もヴェトナムにいる管理者に密かに報告していた。彼はかつて留学していた大学の事務職となり、年上の日系人女性の恋人も出来、ヴェトナム戦争映画の製作にも関わるが、やがて将軍の反攻計画に巻き込まれていく。
ピュリッツァー賞等、数々の賞に輝いたヴェトナム系米国人作家の驚異のデビュー作。
▼ここが魅力!
小山正「シリアスな謀略小説でありながら、随所にユーモラスな味わいも」
難波弘之「スパイ小説と呼ぶには重過ぎるテーマなのに、エンターテインメントにもなっている奇跡のような作品」
筑波大学ミステリー研究会「絶えず周囲に向けられた目が最後に自分自身に向けられるのが上手い」
加賀山卓朗「幼なじみのヴェトナム人三人が戦争に翻弄されて別々の道を歩むというそれだけで、ぐっと来る」