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2022/03/24

source : 文春新書

genre : ライフ, 医療, ヘルス

「万能型ワクチン」の開発が必要

 その「いたちごっこ」を断ち切るためには、変異によっても効果が低減しない「万能型ワクチン」を開発することが是非とも必要です。

 現在のmRNAワクチンは、最初に中国の武漢で感染拡大した新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を標的として体内に抗体を作らせることを目的として開発されています。コロナウイルスはスパイクタンパク質を使って細胞内に侵入するため、そのスパイクタンパク質の情報(RNA)を成分とするワクチンを接種することで、スパイクタンパク質の働きを妨げる抗体を体内にたくさんつくって、感染や重症化を予防しているのです。

写真はイメージです ©iStock.com

 しかし、そのスパイクタンパク質が変異したデルタ型やオミクロン型のような変異株が現れると、感染予防効果は低減してしまいます。また、抗体の量は3~6カ月で急減すると報告されています。

 それに対し、私が開発を目指している「万能型」ワクチンは、変異しやすいスパイクタンパク質ではなく、風邪の原因のコロナウイルスから今回の新型コロナウイルスにも共通するタンパクの一部分を標的にしています。

 新型コロナウイルスはコロナウイルスの一種です。コロナウイルスは風邪の原因ウイルスで、たとえ感染力が強くても重症化リスクが低ければ、ふつうの風邪の流行と考えられ問題視されません。

 しかし、新型コロナウイルスのように感染力が強く、かつ重症化する感染者が多いと、恐ろしいウイルスに変身します。過去にはSARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスの例がありました。SARSもMERSもコロナウイルスの一種です。

 コロナウイルスはRNAをゲノム(全遺伝情報)とするRNAウイルスですが、ゲノム解析の結果、新型コロナウイルスとSARSウイルスの遺伝情報は79%、SARSとMERSでも50%一致することが分かっています。つまり、共通する部分があるということです。

 ヒトのゲノムはDNAという物質に含まれる遺伝情報ですが、個体差は全情報の僅か0.1%です。その違いが人間の個性や多様性を生み出しているのですが、反対にいうと、それ以外の遺伝情報はみな同じだということです。

 たとえば、髪の毛の色や、感染症から身を守る免疫機能に関係するタンパク質などには多様性がありますが、細胞の増殖や分裂などヒトの構造の根幹にかかわる遺伝情報には多様性はほとんどありません。多様性は遺伝情報のランダムな変異によって生み出されるのですが、生命体の生存の根幹に関わる遺伝情報に変異が起こると、その個体は生き延びられないため、その部分では多様性は非常に限られているのです。

 同じことは、コロナウイルスにも言えます。つまり、ウイルスの構造の根幹に影響を与えないスパイクタンパク質の遺伝情報には頻繁に変異が起こる一方で、ウイルスの存続や増殖に深くかかわるような遺伝情報には変化はなく、すべてのコロナウイルスに共通する遺伝情報があるということです。

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