そうやって苦い思いをものすごくしてるんですよ。時間残したり、はみ出したりしたらいけないというのが染みついてる。どうしても型にはまるっておかしいんですけど、時間内に入れるというのは重要視しちゃうんですね。
――なるほど。
上沼 だからテレビで育った人間は仕方ないんですよ。どうしても時間を気にする。これからネット時代になるのかもわかりませんが、やっぱり型にはまったところはちょっとあるのかもしれませんね。これ仕方がないわ。長いことそれできたから。
芸能界では「負けっぱなしです」
――たとえば芸能界において「わざと負ける」みたいなことはありましたか。
上沼 芸能界ですか? 負けっぱなしですやんか。まずキー局じゃなかったことが負けているし。悔しいなと思いましたよ、それはね。
私は個人商店なので、その時点で大手スーパーには負けてます。吉本さんに2本番組持っていかれましたよ。吉本さんに申し訳ないんだけど、ムカっとはしました。局から「上沼さん申し訳ない、数字はいってるんだけれど……」って言われて、2本。だいぶ前ですけどね。
松本人志さんと『快傑えみちゃんねる』で対談をさせてもらったことがあるんです。その時に松本さんが一番感動してたのが、私が個人商店だということなんです。「俺は吉本やけど。えっ、ひとり? ずっと?」って。びっくりされたようです。
やっぱり組織で守られるというか、別にダウンタウンは守られなくても残った人なんですが。ワーッと御輿のように持ち上げてくれるっていうのは、どなたにもあるじゃないですか。守られるんです、やっぱり。「吉本さん敵に回されへんわ」って局が言うんですから。
――吉本興業の会長が上沼さんに直々にスカウトに来られたという話は本当でしょうか。
上沼 そうです。林さん。林正之助さんが『バラエティー生活笑百科』をご覧になってたらしいんです。私が30歳ぐらいの時ですね。それで「こういう人を吉本に入れんかい」って言うたらしいんですよね。
事務所の方はそれを聞いて「ああこの方は昔漫才やってはったけど、今片手間にこんなん出てるだけなんで」って言うたらしいんですよ。そしたら「あかん!」「絶対入れろ!」って持ってた杖をわーっと振り回したっていうの。
ーーほんとですか……?
上沼 ほんとほんと。私、聞いたの。「杖振り回されたので、1回だけ本人に会って断わっていただけませんか」っていうので、初めてNGK(なんばグランド花月)へ行きました。それでしばらく待ってたら、杖ついてこないして出てきたの。寛平ちゃんのコントみたいでした。
――ほんとですか(笑)。
上沼 私は、生きてる林正之助を見ておこうと思ったんですよ。絶対生きたとこ見ておきたいと。失礼なんですけれども、その好奇心で。吉本入りは「私は主婦でございますので」ってお断りしました。