――M-1の審査員、やってよかったなとは思いますか?
上沼 そうですね。嫌な被害ばかりではなく、若い子たちが知ってくださってる、「面白いおばちゃんやな」って言ってくれることもあるから。まあプラスマイナスゼロですね。いい経験しました。
ただ、年いってからだったのできっつい。なんかもう、年いったらほっといてくれへん、みたいなところがあるんですよ。それを「歯並び悪いわ」「あのおばはんは売名行為や」って、60過ぎてからわーってやられると、ものすごくきっついですね。
――悔しいですね。
上沼 だから逆襲してるんですよ、YouTubeで。その舞台として使わせてもらってるんです。プロダクションもなにもなくて、一匹狼でやってきた人間としては、ほんとに痛快なステージなんですね。
プロダクションの大きさで紅白の枠が決まってたり、ずーっとそういう流れがありましたけど、私、どこも入ってないので。あの人はどこどこ事務所だから強いねんとか言われなくてすむ、唯一のステージですよね。
外国から「がんばってください」ってコメントきたりする。もう恐ろしいステージだなと思いました。ローカルタレントから急に国際スターです。
テレビの「時間感覚」を捨てられないワケ
――どんな人でも同じ「平場」に立てる。
上沼 ネットに対しては「好きなことばっかり書きやがってバカヤロウ」とか思ってましたから。それを逆手にとって、そちらのステージを使わせていただいてますね、今。楽しいですよ。もうこれやったらいかん、これ言うたらいかんとか言われることもない。あえて暴言吐くつもりはないですが。
ただね、テレビで育ってるのでね、出来上がった動画見て「ここ編集でつままんかいな」とか思う時はあります。でもそれ言うと「ゆるい作り方をするからYouTubeなんだよ」って言って怒られるんです。ゆるくていいんだと。これはもう職業病ですね。50年やってますから。
――以前この企画で、元オセロの中島知子さんにインタビューした時に、上沼さんのことをお話しされてて。急にあと15秒でCMってなった時に、上沼さんはその15秒をきっちり使ってきっちり落とすと。自分はそんなことができない、無力を痛感したと話されていました。
上沼 いえ私、そんなできてませんよ。昔ね、朝日放送の寄席番組があったんですよ。『かねてっちゃん』というかまぼこ屋さん一社提供の。それでね、6分のネタで3分残してお姉ちゃんと下りてきたことがあるんです。ネタが飛んじゃって。それからずっと朝日放送で仕事なかったんですよ。
ーーええ!?
上沼 そういう時代やったの。ちょっと失礼なこと言いますけど、今は昨日までここ歩いてたような素人さんが、今日から吉本入りましたっていうたら、もうひな壇に並んでたりするんですよ。私らの時は、面白くないと、優れていないと、テレビって出してもらえなかった。
やっときた寄席の仕事で3分残して降りてしまって、そのあとチャンバラトリオさんがその3分を埋めてくださったんです。「二度と使わない」ってその時のプロデューサーに言われました。