ロシア・ウクライナ戦争では、軍用・民生用のドローンが活躍し、大きな戦果を出している。トルコ製やウクライナ国産の武装ドローンがロシア軍を次々と撃破しているほか、民生用ドローンが偵察や砲兵観測を担い、果ては宣伝戦まで行っている。
開戦前には低評価だった
いまウクライナ軍によるロシア軍の兵站破壊でひときわ活躍している武装ドローンTB2。
この機体は「トルコドリーム」の象徴だ。2005年、MIT修士課程の学生で自動車部品の下請け工場の2代目でしかなかったバイラクタル青年は、トルコ政府に対してドローン技術がゲームチェンジャーだと力説し、多額の投資を引き出すことに成功した。
そのトルコ政府が全面バックアップするバイカル社が生み出したベストセラー兵器が、2014年に初飛行した武装ドローンTB2だ。TB2は、地上の管制車両から操縦して最大27時間も飛行でき、武装は4発の対地ミサイルや精密誘導爆弾を持つ機体だ。長さは6.5m、翼幅12mとドローンの中では中型に属する。
この機体は性能もさることながら、トルコ外交の道具として販売や供与され、各地の戦場で高額なロシア製兵器を撃破している。特にアゼルバイジャンとアルメニアの2020年のナゴルノ・カラバフ紛争ではTB2が活躍し、21世紀の電撃戦の担い手となった。一説には陸自1個戦車師団ものアルメニア軍を撃滅し、戦場では飛翔音を聞いただけで逃げ出す兵士まで出たという。
緊急供与により、30~40機程度を展開
バイカル社はトルコのドローン産業の牽引役となり、バイラクタル青年もこの功によってか、エルドアン大統領の娘と2016年に結婚している。
ウクライナ軍はTB2の12機購入を2019年に決定していたが、ウクライナ自身が東部での親露派勢力との戦いでTB2が戦果をあげたことや各国でのTB2の活躍を受けて、ライセンス生産も含めて計66機の調達を決定するまでになった。その全機が到着してはいないものの、バイカル社が開戦直前から開戦後に緊急供与を行ったことにより30~40機程度は展開していると思われる。
実は、開戦前はドローンの下馬評は必ずしも高いものではなかった。
例えば米シンクタンクFPRIのリサーチディレクターのアーロン・ステインは、「ドローンは地上砲火の影響を受けやすいことが証明されているので、ロシアの安全保障エリートの間では東ヨーロッパでのトルコのドローンの拡散についてほとんど懸念がない。ニアピア紛争ではTB2のようなドローンは生き残れない」と豪語していた。
日本でも「TB2はロシア軍の前にカモになる」「ロシア正規軍相手には通用しない」「強力な野戦防空の前に無力」などと、ドローンへの無知や実戦の複雑さを無視した根拠で語られていた。