また米軍の武装ドローンのMQ-9リーパーは、昨年春に敵の電子戦に新装備で対抗する実験に成功している。これはドローンを大国間戦争でも十分に活躍できるようにする目的で行われたが、仕組みとしてはAIが電波信号のパターンを読んでそれに対してカウンタリングしていくというものだ。電子戦で乗っ取りができるなら、当然ながらそれを探知し、対抗するシステムはいくらでも作れる。そもそもすべての周波数で電波妨害することはできないし、できたとしても自らも盲目な状態になるだけなので限界があるということだ。
ドローンの活躍はどのような意味を持つのか
それでは、このようなドローンの活躍はどのような意味を持つのか。
今回の戦争は、ドローンの使用を前提とした(相互にドローンを実装し、その対策を進めてきた)軍同士が激突した初めての戦争だ。特にロシア軍は2018年に全軍に対ドローン戦術の訓練を開始するよう命じ、米軍を超える野戦防空網を持つとされてきた。にもかかわらず、ウクライナ側は軍用ドローンだけでなく、民生ドローンまで自由自在に跳梁跋扈させ、ロシア軍に多大な出血を強要している。
つまり、ドローンは、戦車や戦闘機や潜水艦と同じく今後の戦争に欠くべからざる兵器システムだということが証明された。
もう一つは、今回の戦争においてドローンは低空域を中心に活躍しているが、ドローンが飛翔する高度1000m以下の「空地中間領域(InDAG:The intermediate domain of the Air and Ground)」が新たな戦闘ドメインになったということだ。
この地上と空中の中間にある「中途半端な空間」は、これまで恒常的に軍事利用されてこなかった。そのため、この戦闘空間の存在を前提にしていない兵器群が次々と撃破されているのだ。
ドローン対策の遅れた自衛隊は、新時代の戦闘に耐えられない
最後に、今回の戦争は多くの戦訓を日本に提供するが、ドローンもまた例外ではない。ドローンがあれば勝利できるわけではないが、もはやドローンなくして勝利はない。ドローンを軽んじ、いまだに武装ドローンも自爆ドローンも保有せず、研究も対策もない自衛隊は新時代の戦闘には耐えられない。このままではドローン大国の中国に必敗するだろう。
少なくともロシア軍よりもドローン対策が遅れ、ミサイル弾薬も少なく、訓練も研究もなく、はるかに兵站の脆弱な自衛隊が、中国軍のようなドローン前提軍と対峙すれば、生身の自衛官やそれが搭乗する兵器、そして兵站がドローンに一方的に殲滅される悲惨な結果になりかねない。
認知領域における戦いでも、中国軍は映像メディアとしてのドローンの使い方に秀でており、有事の際には自衛隊を撃破する映像等を投稿して“善戦”と“正当性”を印象付けようとし、それはかなりの効果を発揮してしまうだろう。
期せずして、今年は国家安全保障戦略と防衛大綱の改定が予定されており、これは自衛隊を脱皮させる最後のチャンスだ。これを逃せば5年後まで本格的なドローンの導入・技術産業戦略・ドクトリンの策定は遅れ、ますます自衛隊は時代遅れの武装集団に堕していく。
もう残された時間はない。