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「男妾を2人連れて、亭主と一緒に旅行したと評判に」…瀬戸内寂聴が語る、岡本太郎の母・かの子の“知られざる男性関係”

『老いて華やぐ』より #1

2022/04/06

source : 文春文庫

genre : ライフ, 働き方, 社会, 政治, 経済, 人生相談, 読書

note

 当時の一般的な夫ならば、妻が病気になって精神病院に入ったらもうそこで離縁なども考えたでしょう。しかし岡本一平はそこで大反省をいたしました。

 自分は大貫家のあんなに大切にしていた娘を無理にもらってきて、何年も経たないうちに、こんなふうに壊してしまった。普通に生活を送れないようにしてしまった。これは男として自分の責任だ、 自分は自分の生涯を費やしても、かの子を幸せにしなければいけない、と決意しました。

 そのようなことを病院のかの子に繰り返し言って、「君が治ったら君のために、自分は世界一幸せな女に君をしてやるよ。そのために自分はどんな犠牲でも払う」と誓ったのです。

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 かの子はその誓いが効いたかどうか、とにかく病気が治りました。そして、新しい生活が始まります。かの子はそのときのことを、後に小説の中に魔の時代と書いています。一平とかの子が魔界をくぐった時代というわけです。

かの子と夫と2人の男の愛

 かの子は打ち捨てられたときに、一人の若い青年と恋をしています。

 その青年は、かの子の歌に憧れてかの子を訪ねてきた人で、早稲田の学生だった堀切茂雄という人です。かの子は一平が構ってくれない寂しさから、彼と仲良くなりました。その堀切茂雄を、かの子は病気が治った後、家に同居させます。一平はそれを認めて許すわけです。

 それからまた堀切茂雄が出て行った後では、新田亀三という慶應大学のお医者さんをお家に入れます。

 かの子が「パパは私が幸せになるためには何でも言うことを聞いてやるって言ったでしょ。私が小説を書きたいから小説を書くためには、慶應のあのお医者さんが必要なの」ということを言うんですね。

 かの子が痔の手術をしたときにそのお医者さんが当番で、かの子の面倒を見てくれたそうです。それがとてもハンサムな美しい青年だったのでかの子はすっかり好きになってしまいます。