「キツイ! そして重い!」これにカメラ2台か……とても走れん
しかしワシは今回はウクライナから避難する難民と同様徒歩での脱出を考えてたので、荷物を極端に小さくしたから、チョッキもマスクもお薬もさっぱりなしなのである。
「ボディーアーマーの経験は?」とスタッフが聞いてきた。
「アフガンとイラク、ジョージア(グルジア)、最後は8年前のタイの内戦で」
「一応軍用のを用意した。袖を通してサイズを確認してくれ」
確かに8年前のタイではしょったが、あの時は50代や。今は還暦過ぎや。右手で防弾チョッキを担ぐ。重い。プレート用の腹部ポケットの中も確認する。ウクライナ語のラベルが貼ってあったがこの重さと固さからセラミック製のレベル4で間違いない。背中側には厚みはあるが弾力もあるスペクトラか? まあこれでも15キロはあるか。寒いからまだましやが、年齢が年齢である。ワシの密着番組を撮る3人は3人とも30代、わしがどこかで子供ができてれば息子の年齢である。
「キツイ! そして重い!」
これにカメラ2台か……とても走れん。
それから薄い爆発物の破片用のレベル2程度の一番よくみる紺色のやつ、プレスとベルクロステッカーを貼られたのである。これを軍用の上に2重に羽織れというのか? さらに首まわり専門のエリマキトカゲのようなケブラー製のオプション。たしかにこちらの運動力や体力さえ無視したら、なんでもあればそれはそれで安心ではあるが……。
「これも必要?」
ワシは思わず聞いた。こんなもん首に巻かれたらカメラ構えられん。メットもケブラー製の分厚く重い、米軍や自衛隊用のフリッツタイプでなく、小ぶりの英軍タイプで、あごの下で止めるだけの2点留めでなく、後頭部にもストラップが回る4点留め。これやったら、砲弾の爆風くらいでは絶対外れんが、ライフル弾の直撃くらったら、紙同様である。しかし、彼らはそんなことお構いなしに話を続ける。
出血死のまえに痛みで気絶するほどの激痛が…
「あとは止血帯、これも持っていてくれ。使ったことは?」
あるわけない。
「今見せるからあとで自分で試しにやってみてくれ」
デニスが自分のふとももに黒のバンドを巻きプラスチック製のハンドルを回し締め上げる。「もうヒーヒー言いながらこれを6回まわしてくれ。そうすれば出血死はない」という。
早速自分の足に巻きつけ、ハンドルを3回もまわすとふとももが白く変色して痛い。無理! 6回なんて、出血死のまえに痛みで気絶するほどの激痛である。
「無理! 絶対!」
「分かったその時がきたらおれがやってやるから、おれにその時がきたときは気絶しても6回回してくれ。一応2本。チョッキの穴に通して持って行ってくれ。あとこれも忘れず常に身につけてくれ」
「メディキット(救急箱)?」