陰ながら女性の力になるジェントルメン
そうして柚木さんが「Come Come Kan‼︎」を書き上げたのは、2016年のこと。
書き終えてからも、菊池寛への興味は残り続け、その思いは2021年の「アパート一階はカフェー」へとつながる。同作は『ついでにジェントルメン』の最終編として収載されている。
戦前にできた女性専用住居「大塚女子アパートメント」、その敷地内にできた喫茶店が舞台の話だ。アパートは当時「こんなところにいる女性は一生独りだ」「全員処女らしい」などと誹謗を受けたり揶揄された。だが菊池寛はそうした世評を意に介さず、隣接の喫茶店のスポンサーになったのだった。
「菊池寛がジェンダーをよく理解していたわけではないと思いますが、当時のフェミニストたちを支援したりチャンスをつくってあげているあたりはさすがです。口は出さずにお金を出したり、自分が主役になりたがるのではなくてただ見守るといった姿勢には、現代の一部の男性たちも見習うべきところが大いにあるんじゃないでしょうか?
そう、本のタイトルにした『ついでにジェントルメン』って、菊池寛のことなんです。『レディース・アンド・ジェントルメン』という言い方はふつうに訳せば『淑女と紳士』でしょうけど、ジェンダーギャップ指数が世界120位の日本では『女性、それからついでに、男性』くらいに考えていいんじゃないですか? 『アパート一階はカフェー』の菊池寛は、そんな立ち位置で女性たちに接していますよ。
いまの世の男性の中には、フェミニズムをわかっているふりして振る舞い、結局は女性の足を踏んじゃっていることが多いものです。我こそは女性を救ってあげられるヒーローであるといった思い込みはやめて、陰ながら力になる協力者くらいの姿勢、そう、菊池寛スタイルがお互いにちょうどいいんですよ」