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「アイツ、これから化けるよ!」テレビ界から遠ざかっていた有吉弘行が周囲を感嘆させた“腹黒い笑い”とは

『藝人春秋』より #1

2022/04/18

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 芸能

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「あのさぁ……高田先生が竜兵会でのツッコミを絶賛してたよ」

 この初接触に「ありがとうございます」と、照れくさそうに顔を赤らめて一言絞り出すと、その後は人見知りのバリアで身を包み、それ以上の会話を続かせなかった。そのまま我々はスタジオを後にした。

林家正蔵師匠からの電話は「…彼はね、必ず来ますよ!」

 翌日、ボクの携帯電話が鳴った。

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 着信表示を見ると、ボク的登録名「根岸の金正日」こと、林家正蔵師匠からであった。正蔵師匠とは若かりし頃、こぶ平時代に番号を交換して以来、20年間で一度しか電話で話したことがなかった。おまけに、そのたった一度の着信も「さんま師匠! 今インターを降りたところでちて、今からすぐに向かいまちゅから……」とゴルフ場への遅刻報告、与太郎を地で行く、完全な間違い電話だった。

水道橋博士 ©文藝春秋

 それ以来の正蔵師匠からの電話だ。何事だろうと思い、通話を受けてみると、

「……あのさあ、博士に伝えたいことがあるんだぁ……」

 と語り出し、

「じつは昨日、博士が帰った後のモノマネの収録でね、有吉くんがあまりにも面白くてさぁ、ほんと感動したんだよぉ。どうしてもそのことを博士に伝えたくて……彼はね、必ず来ますよ!」

 と、かつての“テレビ探偵団”が、その目利きの自負に懸けて言うや、手短に電話を切った。

 今はリサイクルショップで埃を被る古びた太鼓でも、それが名品「火焰太鼓」であることを見抜いたか、有吉くんが「来る!」ということをボクに伝えるためだけに、わざわざ電話をかけてきたのだった。

 その後、番組のオンエアを確認したところ、有吉くんが披露したのは「渡哲也が石原プロ43周年パーティーで石原裕次郎に褒めてもらったものまねを披露する」というピン芸だった。込み入った設定だが、大御所を自由奔放に演じるという糞度胸も窺い知れて、確かに面白かった。いや、その笑いは、実に腹黒かった。

【続きを読む】有吉弘行が異例の再ブレークを果たした“納得の理由” 業界関係者からは「批評性や並外れた話術は全然なかった!」という声も…

藝人春秋 (文春文庫)

水道橋博士

文藝春秋

2015年4月10日 発売

「アイツ、これから化けるよ!」テレビ界から遠ざかっていた有吉弘行が周囲を感嘆させた“腹黒い笑い”とは

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