「……え、それはさ、普通にお姉さんなんじゃないの?」とおそるおそる尋ねるSさん。
「いや、引き戸だったんだよ、うちの2階の扉」
ギョッとしたTさんが引き戸を開けると、向かいの部屋からTさんのお姉さんも驚いた表情で顔を出していたという。
廊下の壁あたりから、扉を閉めるような音
廊下を見やるも誰もいない。
「……まじで、あんたじゃないの?」
「違う、違う!」
「なんかオルゴールの音みたいなのしていたけど、あれは?」
「……は? いや、それ姉ちゃんの部屋からしてたじゃん!」
異常な事態に二人が固まっていたそのとき――
バタンッ!!
何もない廊下の壁あたりから、扉を閉めるような音が響き、二人は悲鳴をあげたのだそうだ。
◆◆◆
「誰かが、帰ってきた感じの音だったな」と記憶をたどりつつ語るTさん。
「なんか、どんどん“存在感”が増してきている感じがするね……」
Sさんはコマーシャルに差し掛かったテレビ番組を眺めつつ、じっとりと汗をかいた手でテーブルの上のお酒を飲み干した。
「でさ、それから数年経った、高校3年のときにさ、決定的なことが起こったんだよ」
Tさんはぼーっとテレビを見つめたまま話を続けたそうだ。
◆◆◆
家で仲間と怖いDVDを見ることに
恐怖に対して好奇心が増してくる年頃に差し掛かったこともあり、Tさんはこの“奇怪な体験”を仲間内に語ったことがあった。当然、身近なところから出てきた怪奇現象の話に、Tさんの友達は大いに盛り上がったそうだ。
そして、クラス内であれよあれよと話が広がり、“現場”であるTさんの家でその話を語る会を開くことになってしまった。
「流石にそれはまずくない……?」
「いや、別に何かされたわけじゃないんだし大丈夫でしょ! というか今日Tん家みんなで行っちゃダメ?」
盛り上がる仲間に押し切られる形で、その日の学校帰りにTさんの部屋に集合して、怖い話を語ったり、怖いDVDを見たりすることになってしまったのだそうだ。