3年くらいは何も起きていないから大丈夫か……。
自室でワイワイと怖い話や心霊DVDで盛り上がる仲間を見ているうちに、Tさんのなかにそんな気持ちが芽生えていった。
友人たちと談笑していた部屋に現れたのは……
「じゃあ、そろそろ本題のTの話聞かせてよ!」
「お、いよいよ聞いちゃう!」
「緊張してきたー」
なんだか、改めてこう羨望の眼差しを向けられると気恥ずかしいな……。そう思ったTさんだったが、なるべくならみんなを怖がらせようと、初めて聞く仲間のために、一連の出来事を最初から語り始めた。
「えー、ことの発端は、俺が幼稚園児のときにこの家に引っ越してきたときで――」
バタンッ!
「え……?」
部屋の向こうでドアが閉まる音がして、スススッと引き戸が開く。
「いらっしゃーい。みんな、喉乾いたんじゃない?」
見慣れないお盆に乗った見慣れないコップには、ジュースが注がれていた。
知らない女だった。
母親でも、姉でも、親戚でもない。
まったく見ず知らずの女が、母親のようなそぶりをして部屋に入ってきていた。
無我夢中で女に体当たりをして押し出す
Tさんは反射的に立ち上がった。脂汗がドクドクと流れてくる。
この話をすでに聞いていた何人かの友人は“ドアの音”で異変を察知し、座ったまま部屋の奥に逃げるように後ずさりしていた。その様子を見て、話を知らない友人たちもことの異常さに気がついた様子だった。
女は笑顔のままでじっと中空を眺めている。
「うわぁ!」、Tさんは若かったこともありとっさにその女の足元を蹴った。
だが、女は蹴られたのに表情を崩さず、一歩後ろに下がっただけだった。お盆の上のジュースもまるで蝋細工のように動かなかった。
「あラァ~、ふふ」
中空を見つめて笑っている。
Tさんは無我夢中で女に体当たりをして押し出すと、慌てて引き戸を閉めた。
「おい、扉押さえてくれ!」