北九州に住む書店員であるかぁなっき氏。彼はこれまでに膨大な数の実話怪談を集めてきた。そして、大学時代の後輩であり映画ライターの加藤よしき氏とともに、猟奇ユニット“FEAR飯”を結成。ライブ配信サービスTwitCastingで、2016年から「禍話」という怪談チャンネルで怪談を配信し続けている。
愉快な雑談の合間にふいに繰り出される怪談の恐ろしさは、多くのホラーファンをうならせるクオリティ。今回は、そんな日々恐怖を拡散し続けている「禍話」から、とある住宅で起きた奇怪な出来事をまとめた「間借りの家」というお話をお届けする――。(全2回の2回目/#1を読む)
聞いたこともない声
「こんにちは」
誰もいないはずの自宅の階段で、父でも母でも姉でもない何者かとすれ違う。その瞬間、Tさんの意識は途切れた。
…………。
目が覚めると、買い物から帰ってきた母が必死の形相で、自分を起こそうとしていた。
目を開けた自分を見て母は、「あー、良かった……あんたなんでそんなところで寝てんのよ! 熱中症とか病気で倒れちゃったのかと思って心配したんだから!」と罵りながらも安堵の表情を浮かべる。
そんな母親の声を、ドアの向こうから鳴り響く音にぼんやりと耳を傾けているように聞いていたTさんだったが、頭の中にあるのは先ほどの声の主のことだった。
「こんにちは」
誰だ。聞いたこともない声。というより、男だったのか女だったのかも判別できない。
あいつはどこに行ったんだろう。というより、あいつはどこから来たんだろう……。
2階の扉は引き戸だが…
またそれからしばらくの月日が流れ、高校に進学する直前の夜。
Tさんは自分の部屋で漫画を読んでいた。
「クラシック音楽みたいな、そういうオルゴールの音が聞こえてきたんだよ。姉ちゃんの部屋から。そんなの買うような人じゃないから不思議に思っていたんだけど、まあ、どうでもいいかって。そしたらさバタンッ! って勢いよくドアが閉まる音が部屋の向こうから聞こえたんだよ」