Tさんはあっけに取られていた友人たちに叫び、我に返った友人たちは、必死に扉を押さえていた。
意を決して、引き戸を開けたが…
「邪魔しちゃったかなァ~? ごめんなさいねぇ~?」
声は、あのとき聞いた男なのか、女なのかわからない声になっていた。
「え、誰!? なになになに!?」
「しらねーよ! ぜんぜん知らない女だよ!!」
「どうしたのォ~~?」
トントントン、と扉を叩く。
不意にTさんは子供時代から経験してきた、あの恐怖の感覚がブワァーっと全身を駆け上がるような気持ちに苛まれ、手足から血の気が引いていった。
「怖がらせちゃったァ~~?」
しばらくすると、声はしなくなり、扉の前から気配が遠のいた。
ギッギッギッ……。
廊下を歩く音と、トンッ、トンッ、トンッと階段を下っていく音がかすかに聞こえた。
安堵の気持ちが湧くと同時に、一階にいる母親と姉の元にそいつが向かったことに気がつき、背中にツーっと汗が流れた。
扉を開けて降りるべきか……? だが、1階からは悲鳴や物音は聞こえない。
友人たちを下がらせ、意を決して、引き戸を開けたが、そこには誰もいなかったそうだ。
因縁や曰くは特に出てこず
その日はそのままお開きになった。
しかし、そんな出来事があって以降、学校では“Tの家に幽霊が出る”という噂が広まり、次第に近所でも噂が広がるようになってしまったそうだ。
そんなこともあり、ついにTさん一家はその家を引き払うことを決めたという。
引っ越しの最中、直接の体験を免れていた父が「けっこう安い家で、掘り出し物だったんだけどなぁ」と呟いたとき、そばにいた姉が「そりゃ安いだろうよ……」と苛立ち気味につぶやいたのが、Tさんは忘れられないという。
その後、どうしても気になったSさんがその家について少し調べたそうだが、何も因縁や曰くは特に出てこなかったそうだ。
だが、その家には住人は長くいつかない。そのことだけは、わかったという。
(文=TND幽介〈A4studio〉)