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「お前が負けたら、日本は負ける」

 自分の考えに自信を深めた眞鍋は、エースの木村に「お前が負けたら、日本は負ける」と自覚をうながしただけでなく、選手1人ひとりと面談しながら、自分はどういう選手になりたいのか、またどうなってもらいたいのか、徹底して言葉を重ねた。

 もう1人のエース、江畑幸子の成長も日本の大きな武器になった。江畑はVリーグの下部組織であるチャレンジリーグ・日立リヴァーレの選手である。眞鍋がチャレンジリーグにも足を運び、見出した選手だ。当時まだ20歳。荒削りではあるものの、磨けば光ると眞鍋は読んだ。

「レシーブやブロックはいまいちだけど、アタックにキレがあった。性格は木村に輪をかけたような天然。僕は人前で大きな声を上げることはめったにないけど、江畑だけは別。でも、僕がどんなに怒鳴ってもへこたれないんです。そもそも、人の話を聞いていない。こいつは化けると確信しましたね」

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眞鍋監督にエースと目された江畑幸子選手 ©JMPA

 眞鍋は幾ら注意しても馬耳東風の江畑を目覚めさせるため、メディアの力を借りた。インタビューを受けるたびに、「エースは木村と江畑」と言い続けた。それが、回りまわって江畑の耳にも届く。江畑が言う。

「記者の人から眞鍋さんが『エースは木村と江畑』と言っていると聞き、初めは沙織さんと並べられるなんてとんでもないと思っていたけど、あるとき眞鍋さんに沙織さんと呼ばれ『最後はお前ら2人だぞ』と言われ、あ、眞鍋さんは本気なんだな、って」

 江畑はチーム最年少であることに加え、ほかの選手と違いチャレンジリーグに所属していたため、どこか全日本チームに引け目を感じていた。眞鍋は常々、「全日本には年齢、キャリアは関係ない。実力のあるものから使う」と言っていたものの、全日本に選ばれただけでも満足だった江畑は、いきなりスタメンになれるとは考えていなかった。しかし、実力を発揮できれば、チャンスは平等に与えられることを知り、遠慮の衣を脱ぎ捨てた。眞鍋が目を細める。

「彼女は勝負強い。厳しい試合であればあるほど実力を発揮するんです。でも、波の大きな選手だった。それは自分への自信のなさから来ていた。だから、メディアという他人の力を借りて彼女に吹き込んだ。第三者という客観的な立場から言ってもらえば、信憑性が増すじゃないですか。江畑の成長は全日本にとって大きな財産になりましたよ」

 エースに目覚めた江畑は、日本の運命をかけたロンドン五輪の中国戦で、木村と同じ33得点という大活躍を見せたのである。